第100話 不自然な少女
「キャハハッハハハハハハハハハハハ♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬!!!!!!」
素人目にも正気ではない笑い声を少女が上げたのと同時に閃光が彼女の手から放たれた。
同時に少年も動物的ともいえる反射神経で今先ほどいた場所から一瞬で離れた。
ドチャアアッッッッッッッッッッ!!!!!!!
何か液体をぶちまけたような音がしてから、一気に炎が燃え上がる。
先ほどまで彼がいた場所は地面一体が溶けていた。
そしてあたり一帯にまとわりつくような粘着質の炎。
通常の炎とは異質としか表現できないそれは、まるであらゆるものを溶かす硫酸のようにコンクリート製の地面一体を焼き尽くし、そして溶かしていた。
溶かしていたという表現は誇張ではない。
相当な高温でもない限り消滅しないはずのコンクリートの地面が溶けるように燃えて消えていったのだ。
そのまま行けばさらに下の土も同じように焼き尽くさんと言わんばかりに。
そして、その炎。
・・・・・・・・・・・・・とにかく気味が悪い・・・・・・・・・・。
何か悪臭が立ち込めているわけではない。
だが、その炎の燃え方はまるでドロドロしたヘドロなどの汚染物が周囲を汚染しながら流れていくことを思い起こさせるのだ。
溶岩とも違うその炎は、直感的に生理的嫌悪感を誰の心情にも抱かせた。
それは半ば意志を持っているのではないかとさえ思える歪んだ動きをしているのだ。
“なんだよこの火!?”
“こんな違和感のある魔法見たことない!”
「アミさん!!!いったい何をしたんだ!!?」
やや焦り気味の少年の質問に少女は即答する。
「ゴーレムフレア!!すっごいでしょ!!!私!!自分で魔法を合成できるようになったんだ、サトシ君!!!褒めてよ~♬!!」
“ゴーレムフレア!?聞いたこともない魔法?それに、魔法の合成!?俺の魔法アレンジに似たやつなのか?”
“いや、違う!!!この禍々しさは似ているが本質的に異質な気が・・・!?”
少年は彼女の異変にも気づいていた。
あの不気味な魔法を放った直後から、彼女の口から血が垂れているのだ。
だが、彼女はそれも全く気にしている様子がない。
いや、それどころか疲れている様子さえもみせない。
「アミさん!!もうやめるんだ!!!その魔法を使うたびに君はおかしな弱り方をしている!!!それ以上をそいつを放つとまず!!!ぶ!!!!!!」
ゴッッ!!!!!!
ビシイイイイイッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!
サトシが彼女を制止しようとする前に、彼は頭をつかまれてビルのコンクリート壁に叩きつけられた。
彼の髪の毛をつかんで力任せに硬い壁に叩きつけた手。
それはアミのものだった。
彼女は信じがたいスピードで彼が見切る間もなく間合いに入り込み、彼を力任せに壁へと叩きつけたのだ。
人力では傷程度しかつかないはずのコンクリート壁が大きくひび割れ、叩きつけられたサトシの頭を中心にクレーターができるほどのくぼみが生じた。
彼の額から鮮血が流れ落ちた。
ルビー色のしずくが都会の地面という無機質なキャンバスに恐怖という風景画を瞬時に描く。
夜の光景はその画を限られた人間にしか見せない。
明かりに照らされたそれが血痕とわかった者にだけそれは恐怖の心を呼び起すもの。
だが、さきほどから周辺にいる人間はその画に気づいている様子がない。
「ッ!なっ、なんで周りの奴ら気付かねえ‥んだ!??」
彼の疑問に、彼女は口元に邪悪な笑みを浮かべた。
「だ~れもサトシ君と私の事なんか気づかないよ♬」
“まっ、まさか!?にっ、認識疎外の呪文か!?アミさんが唱えたのか!?”
「どう?誰も気づいてくれない。助けてくれない怖さは?これって私も君も味わい続けてきたことだからお互い慣れっこだろうけど、それでも慣れることなんてできないよね~」
「君、あれから新世界ですごい力に目覚めて研究所から脱出したんだってね♬すごいじゃん♬」
「でも私は君以上にすごい力をもらったの♬だから男の子の君さえもこうして力でねじ伏せられるようになったの♬」
「きっ、君に何があったかは・・わからない・・・。けど、俺は・・・ここで・・倒れるわけには・・・いかない!!!」
サトシがそう言いながら自らの頭をわしづかみにする手を力ずくで払いながらその手の主を突き飛ばし、彼の手のひらから圧縮された火球が彼女に放たれたのはほぼ同時だった。
圧縮された火球は通常の炎系攻撃魔法を圧縮させて爆発寸前にまで凝縮し、破壊力をアップさせたカスタム魔法の一種。
並の魔物なら骨まで消し炭にする威力を持つサトシのアレンジ魔法の一つだ。
通常は溜めてからすぐ放たないといけない魔力をいつ爆発するか分からない状態にまで不安定化させてから放つ故、破壊力は大きい。
だがその性質上、ダークゴブリンの老人からは自分がダメージを追うリスクがあると止められていたアレンジの仕方だ。
これを放った直後の数秒間、彼の心境は一瞬のうちに後悔と安堵と言う矛盾する心理が交差した。
助けようとした彼女に必殺の魔法をとっさとはいえ放ってしまったという感覚。
だが、一方で極限の戦いをしてきた彼の防衛本能が正常に作動したという、言いようのない安心感もあった。
何せ相手は本当の化け物に等しい力を得た少女なのだ。
正直、本当にアミ本人なのかさえサトシはこの瞬間も懐疑していたのだ。
それに、たとえ本人であってもまともに話し合える精神状態でないことは明白。
このような極限下では反射的であっても一撃で相手を倒す手段を行使する以外に生きてこの場を脱出する方法はない。
火球はきわどい衣装に身を包む少女を直撃した。
が。
一瞬だったが、彼女が何かを瞬間的に唱えるのが見えた。
すると彼女の周囲に薄い霧のようなものがいつの間にか漂い、彼が放った火球がそれらにかき消されるように消えてしまった。
「話し中に不意打ちなんて・・・。サトシ君結構ずるい戦いするようになったのね♬」
「いいよいいよ♬それでこそご主人様に大事なサンプルを持ち帰れるもん♬」
“バカな!?腕の届くほどの至近距離から放った火球が一瞬で消えた!?”
“あの霧?もしや魔法無効化の魔法!?それもかなりの上級クラスの!?”
それにあの素早さ。
彼女の動きは彼が知っていたそれをはるかにしのぐ俊敏さがあった。
だが、それでいて何かが違う。
違うと言えば当たり前かもしれない。
何というのか・・・・、歪んでいるのだ。
きわどい目のやり場に困る格好も十分歪だが、それだけじゃない。
不自然で人為的な変更を施されたと分かる動きと、体全体から発する奇怪な高揚感。
壁に押し付けられてダメージを受けながらもサトシはアミの方向を見た。
彼女の瞳には人格を持った人間の光は宿っていなかった。
「アミさん!!一体何があったんだ!?俺はここで立ち止まっているわけにはいかない!!どいてくれ!!!」
「やだよ」
「・・!!」
“ぃぃっ・・・!誰なんだ!?アミさんに何をしやがった・・・!!!”
彼の心を読んだかのように、彼女は口元をにやつかせた。
「私ね。自分を改造してくれた人たちに感謝しているの。おかげで私を蔑んでいた人たちとか、弄んだ奴らとかにたっぷり復讐もさせてもらったし♬」
「今の世の中でこれだけ自由にできるようになったのもこの力のおかげ!!!」
「だから私はご主人様に言われた通り、合図があるまで君と遊ぶんだ♬」
「グッ、ペッッッ!!!!」
口の中に充満する鉄の味を外に吐きだしながらサトシは彼女に問うた。
「誰なんだ!?君の主人、いや、君をおかしくした奴は!?」
彼の問いにアミは嬉しそうに口を開く。
「教えてほしければ力づくで来なさい♬キャハ!!一度行ってみたかったんだこのセリフ♬」
サトシは彼女に対して初めて真正面から戦いの構えをとった。
全身から一気に立ち上った闘気に感応してアミの表情からも余裕が消えていく。
「・・・やっと本気になってくれるみたいね、サトシ君!!これで君と本気の殺し合いができる。うれしい♬」
両者が本格的に干戈を交える場面になったその時。
“!!!なんだこの魔法力の気配”
“あ~あ・・。もう次の段階になっちゃったか・・・。つまんない。もっとサトシ君と遊びたかったのに~。”
“1,2,3,4,7名以上!?この感じは・・・、あのクソ女神!?近いぞ!!”
突如としてそれまで感じていなかった見覚えのある魔法力を少年は感知したのだった。




