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同期卒業-同期、恋人になりました-  作者: あおきつばさ


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第19章:お姫様の断髪式

第19章:お姫様の断髪式


月曜日の朝。

二条ゼネラルフーズの一階ロビーは、週末の穏やかな空気を一瞬で吹き飛ばすほどの驚愕きょうがくのどよめきに包まれていた。


「──ちょっと、嘘でしょ……?」


「二条さん、だよね……?」


出社直後、タイムカードを押そうとした私の視界に、信じられない光景が飛び込んできた。


自動ドアから入ってきたその女性は、いつも通りすきのないハイブランドのスーツを着こなしていた。

けれど、彼女の代名詞であり、社長令嬢としての象徴でもあった、あの気高い螺旋らせんを描く「縦巻きロール」が、跡形もなく消え去っていたのだ。


肩の上できれいに切り揃えられた、瑞々(みずみず)しく軽やかなショートカット。


歩くたびにふわりと揺れる黒髪が、彼女のシャープなフェイスラインを際立たせ、冷徹な美しさに、一人の自立したビジネスパーソンとしてのすごまじい「覚悟」が加わっていた。


彼女──二条麗奈さんは、周囲の好奇の視線を一切気にする様子もなく、前だけを見据えてカツカツと気高きヒール音を響かせ、まっすぐにエレベーターへと向かっていく。


(麗奈さん……バッサリ切ったんだ……!)


その潔い姿に、私の胸に熱いものが込み上げた。

彼女は、父親の操り人形だった過去の自分を、その手で完全に切り落としたのだ。



その日の昼過ぎ。

私がデータ分析の資料を持って役員フロアへ向かうと、社長室の前で麗奈さんがちょうど出てくるところだった。


「お父様。私は坂井さんの背景を利用した不当なPRを中止させました。これからは、誰の力でもなく、私の実力とブランドの力だけでこの新規事業を成功させてみせます。坂井さんの営業力を不当に低く評価するような古いやり方は、二条ゼネラルフーズの損失ですわ」


ドアの向こうへと言い放ち、麗奈さんはバタンと扉を閉めた。


父親である社長に対し、真っ正面から宣戦布告をした現場だった。


「あ、美奈さん」


私を見つけた麗奈さんは、新しくなった髪を耳にかけながら、フッと柔らかく微笑んだ。


「驚かれました? お人形でいる時間は、もうおしまいにしたのですわ」


「いえ……最高に格好いいです、麗奈さん!」


「ふふ、ありがとう。……少し、お話ができて良かったですわ。給湯室へ行きましょう」



人気のない役員フロアの給湯室。

麗奈さんはお茶をれながら、ふいに私をジト目で見つめてきた。


「ところで、美奈さん。あなたと湊斗さん、お付き合いを始められましたわね?」


「んがっ!?」


私が飲もうとしたお茶を派手に吹き出しそうになる。


「な、何言ってるんですか麗奈さん! 社内ですよここ! 私と坂井くんなんてただの同期で戦友だし──」


誤魔化ごまかさなくて結構ですわ。二人のあの不自然なヨソヨソしさ、逆に怪しすぎますもの。それに、湊斗さんが私に見せなかった『ネクタイを緩めた顔』を、今の彼はオフィスでたまにしていますわ。……あなたのおかげですわね」


麗奈さんは少し寂しそうに、でも心から祝福するような優しい目で私を見た。


「本当に、社内恋愛の隠密ミッションというのは大変ですのね。美奈さんはどうやって彼をしつけていらっしゃるの?」


「躾けるだなんて……。もう、今度会社で距離感間違えたり変なハプニング起こしたら、マジでブッコロ……じゃなくて、ブッコロって毎日脅してるんですけど、全然言うこと聞かなくて」


「まあ! ブッコロですのね(笑)」


麗奈さんは私の言い間違いを大層お気に入りになり、コロコロと上品に、けれど心底楽しそうに笑った。


「面白いフレーズですわ。気に入りました。美奈さん、私があなたたちの『強力なカモフラージュ(共犯者)』になって差し上げますわ。社内で怪しいうわさが立ちそうになったら、私が間に入って噂をみ消してあげます。……その代わり、この新規事業、絶対に成功させましょうね」


麗奈さんはそう言って、私に真っ直ぐな右手を差し出してきた。

完璧なお姫様から、頼もしすぎる「友達第一号」へ。


「はい! よろしくお願いします、麗奈さん!」


私は彼女の手を強く握り返した。


社長の圧力、社内の冷遇、そんな外圧なんてクソ喰らえだ。

私と、湊斗と、さらに前を向いた麗奈さん。


三人の不揃いな歯車が、古い組織の壁をぶち破るために、今、最強の熱量で回転を始めようとしていた。


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