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同期卒業-同期、恋人になりました-  作者: あおきつばさ


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第17章:お台場女子会と、焦る元婚約者

第17章:お台場女子会と、焦る元婚約者


日曜日の午後七時。

東京ビッグサイトの喧騒けんそうから少し離れた、お台場のデッキに面したお洒落おしゃれなイタリアンレストラン。


目の前に広がる東京湾の夜景とレインボーブリッジの光を浴びながら、私の対面に座っているのは、二条麗奈さんだった。


肩へと緩やかに流れる見事な縦巻きロール。

寸分の狂いもないシルクのブラウス。

相変わらず周囲の人間を「一般市民」に格下げしてしまうような圧倒的なオーラを放ちながら、麗奈さんはメニュー表を優雅に眺め、フッと完璧な唇をほころばせた。


「──素晴らしいですわね、美奈さん。会社のおじ様たちに囲まれて飲む一杯数万円のワインより、こうしてあなたとカジュアルに飲むカシスソーダの方が、ずっと体に染み渡るようですわ」


「ふふ、麗奈さんにそう言ってもらえると、でっち上げた『新作飲料の反省会』という名目の甲斐かいがありますよ。……でも本当に、いつ見てもその縦巻きロール、完璧でお姫様みたいでれ惚れしちゃいます」


私が本心から言うと、麗奈さんは少しだけ頬を染め、いたずらっぽくクスッと笑ってみせた。


「お姫様だなんて、皮肉かしら? でも、私、自分の人生のかじは自分で握ると決めましたの。お父様の用意したおりの中でただ微笑むだけのお人形は、もうおしまいにしますわ。一人のビジネスパーソンとして、そして──美奈さんの『友達第一号』として立ってみせますの」


「麗奈さん……」


カツン、とカシスソーダのグラスが心地よい音を立てて合わさる。


社内中が「元婚約者のドタバタ劇」として好奇の目を向ける中、私たちは誰も知らない秘密の絆を確かに深めていた。

彼女は単なる失恋したライバルではなく、私にとって、前を向く勇気をくれる最高の戦友であり、大切な友人になっていた。



「──で、麗奈さと何の話をしてたわけ!? なぁ美奈、教えてくれよ!!」


翌日の月曜日、午後一時。

商品企画部のフロア裏にある、自動販売機の前。


周囲の目を盗んで私の前に回り込んできた湊斗は、営業部のエースの面影を一切無くし、捨てられた大型犬のような必死の形相で私に詰め寄っていた。


(バ、バカ!! 声を張り上げるな、社内よここ!!)


私は目を血走らせ、周囲に人がいないか首がちぎれるほどの速度で左右を確認した。

幸い、お昼休みの終盤でフロアにはほとんど人がいない。


「静かにしなさい、坂井くん! プライベートの話は一秒もしないって、LINEの警告書(第二版)に書いたでしょ!!」


「そんなこと言ってる場合かよ! 昨日、二条さん……いや、麗奈さんのインスタのストーリーに、お前と2人で楽しそうにパスタ食べてる写真が上がってたの見たんだよ! メッセージ送っても2人して『企業秘密ですわ』『坂井くんには関係ないでしょ』って一言だけでスルーするし!」


湊斗は髪をガシガシときむしりながら、本気で焦ったように私をにらみつけた。


「俺、生きた心地がしなかったんだからな!? 元婚約者と、今の彼女が、俺の知らないところで裏でつながってるって、どんなホラーだよ! 俺の過去の恥ずかしい秘密とか、あの東陽町の汚部屋のこととか、全部ぶちまけられたんじゃないかって、本気でヒヤヒヤしたんだからな!」


「……ぶふっ」


湊斗のあまりの取り乱しっぷりに、私の口から思わず吹き出し笑いが漏れた。


(あいつ、本当に自分のことしか考えてないんだから……!)


「安心しなさい。あんたの汚部屋のことは一言も話してないわよ。麗奈さんとはね、これからの新作オーガニック飲料のブランディング戦略について、純粋に熱く語り合ってただけ。……あ、でもね」


私は一歩、湊斗に近づくと、彼にだけ聞こえる低い声で、いたずらっぽくささやいた。


「麗奈さんがね、『デート中もずうぅぅぅっと美奈さんの仕事の心配ばかりしていた不器用な殿方』の愚痴を、すっごく楽しそうに教えてくれたわよ? 愛されてるわね、坂井くん」


「……っ!!」


不意打ちの言葉に、今度は湊斗が耳まで真っ赤に染め上がった。

彼は言葉を失い、完全にフリーズしている。


いつもはおちゃらけて私を振り回す側の男が、私の言葉ひとつでここまで余裕をなくして赤くなっている。その必死な姿が、今の私にはたまらなく愛おしかった。


「じゃあ、仕事に戻るわね、坂井くん」


私はすれ違いざま、誰にも見えない位置で、彼のスーツの袖を一瞬だけぎゅっと握りしめてから、サッと手を離した。

社内恋愛の難易度は相変わらずMAXだけれど、このスリリングな距離感も、悪くないかもしれない。


「……あ、おい、美奈! 待てってば!」


背後から聞こえる湊斗の焦った声を心地よく聞き流しながら、私はキリッとした優秀なチーフの顔に戻り、堂々とオフィスへと戻るのだった。


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