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同期卒業-同期、恋人になりました-  作者: あおきつばさ


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第16章:壁紙の証明、そして朝まで

第16章:壁紙の証明、そして朝まで


「ちょっと香織、本当にやめてってば!」


クローゼットの扉を我が物顔で開ける香織の後ろを、私は顔を真っ赤にしながら追いかける。


当の湊斗はといえば、Tシャツを前後逆に着たまま、部屋の隅で、


「終わった……」


という顔で魂を半分口から吐き出していた。


「甘い、甘いわ美奈! 男の一人暮らしなんてね、隠し場所のパターンは決まってるのよ」


香織は探偵のような鋭い目で部屋を見回すと、デスクの上に鎮座する湊斗のノートパソコンに狙いを定めた。


「クローゼットがシロなら、次はデジタルよ。真央、ちょっとこれ開けてみて。男子のPCには、百パーセント人に見せられないいかがわしいフォルダが潜んでるんだから!」


「ちょっと香織、いくらなんでもそれはプライバシーの侵害──」


私の制止もむなしく、面白がった真央が、


「はーい、電源オン」


と、慣れた手つきでノートPCの立ち上げボタンを押してしまった。


「あ、待っ……!」


湊斗が手を伸ばすが、時すでに遅し。

起動音が鳴り、液晶画面にバックライトがともる。


(いや、でもパスワードがね。私も見てみたいけど、どうしたものか……)


数秒の後、デスクトップ画面が表示された。


「……あれ?」


(開くんかーい! パスワード! あ、スリープモードかいっ!)


香織の動きがピタリと止まる。

横の真央も画面をのぞき込んだまま、パチパチと瞬きをした。


私も、それから湊斗も、全員がその画面をじっと見つめる。


そこに映し出されたのは、香織が期待していたようないかがわしい画像でも、仕事用の味気ないグラフでもなかった。


液晶に映っていたのは、色鮮やかな緑の芝生と、青空の下の二人の写真。

数年前、同期メンバー総勢十数人で行った、秋のバーベキュー大会の写真だった。


お肉の乗った紙皿を片手に、カメラに気づかないまま、お互いの顔を見合わせて子供みたいにクシャクシャに笑い合っている──。


坂井湊斗と、浅田美奈の、あまりにも自然なツーショット写真。


「これ……」


私が声を漏らすと、部屋の中に、しんと静かな時間が流れた。


「……なんだ。期待外れね」


香織がふう、と肩の力を抜いて、けれどどこか優しい目でその画面を見つめた。


横にいた真央が、すべてを察したように大人の笑みを浮かべる。

そして、まだパソコンのマウスをいじろうとする香織の首根っこを、背後からガシッとつかんだ。


「はい、ごちそうさま! 香織、帰るわよー」


「えっ、ちょっと待ってよ真央、まだ風紀検査の途中──」


「いいから行くの! これ以上いたら、私たちはただの無粋な邪魔者よ。美奈、あとは若い二人でごゆっくりね!」


「あ、おい! 待てよ二人とも!」


湊斗の引き止める声も虚しく、真央は暴れる香織をラグビーボールのように小脇に抱え、ものすごい身体能力で玄関を飛び出していった。


バタン、とドアが閉まる。



嵐が去った後の、静寂。


東陽町のワンルームには、急に二人きりになった気まずさと、液晶画面から放たれる淡い光だけが残されていた。


「……ごめん湊斗。あいつら、本当に人んちでやりたい放題で……」


私がうつむいたまま謝ると、湊斗はゆっくりと歩み寄り、パソコンの画面をそっと閉じた。

部屋が少しだけ暗くなる。


「いや……別にいいよ。それよりさ」


湊斗は、自分の頭をガシガシときながら、耳まで真っ赤にして私の前にしゃがみ込んだ。


「あの壁紙……ずっと変えてないんだよね。スマホのフォルダにも、お前と撮ったやつだけは絶対に消さないで全部残してある。あのバーベキューの時もさ、みんなの前では同期と楽しんでたフリしてたけど、俺、お前が他の男の同期と楽しそうにしゃべるたびに、裏で肉焦がすくらい嫉妬してたんだわ」


「……肉焦がすって」


不器用すぎる告白に、私の口からふっと笑いが漏れた。


顔を上げると、すぐ目の前に湊斗の真っ直ぐな瞳があった。


もうそこには、「戦友」としての軽いノリも、「オカン」と私をからかう意地悪な光もない。

ただ一人の女性として私を強く求め、焦がれている、男の目だった。


「美奈。今度は大掃除じゃなくてさ、ちゃんと俺の隣にいてよ」


湊斗の手が、私の頬にそっと触れる。

ジム帰りだからか、いつもより少し熱い指先。


その熱が皮膚を通じて心臓へと伝わり、私の胸の奥をじんわりと温かく満たしていく。


「……うん。今度は、オカンムーブしないって約束する」


私が小さくうなずいた瞬間、湊斗の大きな身体が私を包み込むように抱きしめてきた。


そのまま引き寄せられたベッドの上、私たちは言葉を無くし、お互いの体温を確かめ合うように深く、何度も唇を重ねた。


窓の外では、東陽町の静かな夜が更けていく。


「ねぇ、電気、消して……」


長年、隣にいるのが当たり前すぎて、名前をつけるのが怖かった私たちの時間が、今度こそ本当の意味で交わり、私たちは朝まで寄り添いながら、新しい恋人としての夜をつむぎ出すのだった。


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