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第4話 衝突

森の静寂を破るように、枝をかき分ける音が響いた。

「はぁっ、はぁっ……くそっ、まだ追ってきやがるのか……!」

弓を背負った青年オクタヴィオが、血の気の引いた顔で木々の間を駆け抜けていた。 その足取りは重く、泥にまみれたマントが枝に引っかかるたび、彼は苛立ちをあらわにした。

「見つけたぞ、逃亡者ッ!」

背後から怒声が飛ぶ。振り返ると、プレート王国の兵士たちが馬にまたがり、槍を構えて迫っていた。

「ちっ……!」

オクタヴィオは矢をつがえようとしたが、指が震えていた。 そのとき、森の奥から別の声が響いた。

「おい、誰か来るぞ!」

レイアックスだった。拳を構え、木陰から飛び出す。

「……誰だ、あいつ?」

「知らない顔だな。だが、追われてる……!」

ライルが姿を現し、状況を一瞥する。剣に手をかけながらも、すぐに判断を下す。

「……これ以上、ごちゃごちゃにしてはいけない」

「そこの者たち、武器を捨てろ!」

馬上の騎士が叫ぶ。銀の鎧に身を包み、鋭い眼差しを向けていた。

「その男は王国の法を犯した逃亡者だ。そしてお前たちも、彼をかくまうなら同罪と見なす!」

「待て。俺たちは・・・」

ライルが言いかけた瞬間、騎士が言葉をかぶせた。

「いかなる理由があろうと、人を殺すのは最大の罪だ。貴様らは盗賊と変わらぬ!」

「……自分の身を守ることが罪なのか?」

ライルの声は静かだったが、確かな怒りが込められていた。

「俺たちは、言われのない逮捕から逃れただけだ。仲間を守るために戦った。それが罪だというなら・・」

「黙れッ!」

騎士が剣を抜いた。兵士たちも一斉に構える。

「囲め!逃がすな!」

絶体絶命の包囲網・・・・ そのときだった。

「……ん?なんだ、あれ……

地面を転がる、ゴツゴツした金属の玉。 次の瞬間

「目を閉じろッ!!」

セレブの叫びと同時に、玉が閃光を放った。 白い光が森を包み、兵士たちが目を覆う。

「今だ、川へ!」

ライルの号令に、一行は一斉に駆け出した。 ノアが悲鳴を上げながらも必死に走り、レイアックスがオクタビオの腕をつかむ。

「おい、あんた……名前は!?」

「オクタヴィオ!……助けてくれて、感謝する!」

「借りは返せよ、弓野郎!」

水音が近づく。 そして・・・彼らは、夜の川へと飛び込んだ。


*********

川を越え、森を抜けた先に、巨大な影がそびえていた。 それはまるで、空を支えるかのような石の塔 プレート王国第四の都市、「塔の街」だった。

「……あれが、塔の街……」

ノアが息を呑む。 その背後で、オクタヴィオが肩で息をしながらも、どこか安堵したように笑った。

「間に合った……ここまで来れば、もう追っ手も簡単には来られない」

そのとき、静かに歩み寄る影があった。 フードを下ろし、穏やかな笑みを浮かべる男・・・・。

「やっとたどり着いたな。私の名はラトラバーシュ。君たちを導く者だ。」

「あなたが……あの閃光弾を?」 ライルの問いに、ラトラバーシュは軽く頷く。

「正確には・・・・彼だ」

ラトラバーシュの視線が、オクタヴィオへ向けられる。 オクタヴィオは気まずそうに頭をかいた。

「……悪いな。最初から、あんたらをここへ誘導するのが俺の役目だった」

「なんだよ、言えよそういうことは!」 レイアックスがむくれるが、オクタヴィオは苦笑した。

「言ったら、あんたら逃げるだろ? 俺、見た目が怪しいしな」

「それは……否定できないねぇ」 セレブが肩をすくめる。

ラトラバーシュが一歩前に出る。

「オクタヴィオは我らの斥候だ。君たちを救ったのも、塔の街まで導いたのも、すべて彼の判断だ。礼を言うといい」

ライルは素直に頭を下げた。

「……助かった。ありがとう」

オクタヴィオは照れくさそうに鼻を鳴らした。

「礼なんていらねぇよ。俺はただ、やるべきことをやっただけだ」

そして、彼は背負っていた弓を軽く叩きながら言った。

「ここから先は、俺の役目じゃない。塔の街には別の任務がある。……でも、また会うさ。あんたら、どうせ派手に暴れそうだしな」

ノアが不安そうに見上げる。

「……もう行っちゃうの?」

「おう。俺の任務はこれで終わりだ。でも、近くで弓の音が聞こえたら、俺だと思っとけ」

軽く手を振り、オクタヴィオはラトラバーシュの側へ歩いていく。 その背中は、どこか誇らしげで、そして少し寂しげだった。

「行こう。君たちを主のもとへ案内する」

ラトラバーシュの声に、一行は塔の街の城門をくぐった。 石畳の道、高くそびえる塔、そして空を裂くような鐘の音・・・・そこは、まるで別世界だった。


「この塔の町は、かつて王家直属の魔術研究拠点だった。  今は我ら反乱軍が占拠しているが……王国の目を欺くため、外見は廃墟のままにしてある」

塔の内部に入ると、外観からは想像できないほど整備された空間が広がっていた。 壁には古代文字の刻まれた石板、中央には魔力を帯びた水晶灯。 兵士たちが地図を囲み、低い声で作戦を話し合っている。

「……すげぇな、ここ」

レイアックスが思わず呟くと、ラトラバーシュは微笑んだ。

「反乱軍といっても、烏合の衆ではない。  王国の腐敗を憂う貴族、学者、兵士……多くの者が志を同じくしている」

**********


城館の廊下を進む途中、一行は二人の人物とすれ違う。

一人は金髪の青年。高慢な笑みを浮かべ、ライルたちを値踏みするように見下ろす。

「ふん、これが“希望の使者”か。ずいぶんと泥臭いな」

「なんだと……?」

レイアックスが一歩踏み出しかけたそのとき、もう一人の人物が静かに手を上げた。

「やめておけ、ガズグー。彼らは客人だ」

その声は、まるで風のように静かで、深く、そして冷たい。 草原を感じさせる緑色の髪に尖った耳、琥珀色の瞳を持つエルフの女…ファルザだった。

彼女が一瞥をくれただけで、空気が一変する。 その場にいた誰もが、言葉を失った。

ファルザは何も言わず、静かにその場を去っていった。 その背中に、誰もが目を奪われていた。

階段を上り、最上階の扉の前でラトラバーシュが立ち止まった。

「ここが、我らの指導者の間だ。  タイキ公デュラン様がお待ちだ」


扉が静かに開く。


部屋の奥、重厚な黒檀の机の前に、一人の男が立っていた。 白銀の髪は背まで流れ、深い皺を刻んだ顔には、長年の苦悩と決意が刻まれている。 その眼差しは、まるで大陸の未来そのものを見据えているかのようだった。

「私はタイキ公デュラン。  プレート王国を蝕む宰相ガールクラインを討つため、反乱軍を率いている」

声は低く、重く、部屋の空気を震わせた。

「……俺たちは、ただ巻き込まれただけだ」

ライルが言うと、デュランはゆっくりと歩み寄り、彼の肩に手を置いた。 その手は、驚くほど温かかった。

「巻き込まれた者こそ、時に歴史を動かす。  英雄とは、選ばれた者ではない。  “選ばれざる者が、選ばざるを得なかった時”に生まれるのだ」

その言葉には、重みがあった。 まるで彼自身が、かつて“選ばれざる者”だったかのように。

デュランは机の上の地図を指し示した。

「君たちには、南の町アイゼルへ密書を届けてほしい。  領主リスター伯カオンは我らの同志だ。  だが、宰相の手の者がすでに動いている。  君たちが持つ“檄文”は、王国の根を揺るがす証拠となる」

ラトラバーシュが続ける。

「この塔に来た時点で、君たちはもう“ただの旅人”ではない。  王国の闇に踏み込んだ者だ。  ……覚悟はあるか?」

四人は互いに顔を見合わせた。 まだ仲間とは言えない寄せ集め。 だが、この瞬間、確かに“何か”が動き始めていた。

「プレート王国は今、宰相ガールクラインとその一派に支配されている。正義を語る者は粛正され、民は声を失った。私は、それを正したい」

「……だが、権力を持てば、人は変わる。あなたも、そうなるのでは?」

ライルの問いに、デュランは微笑んだ。

「だからこそ、私は“分け合う”のだ。力を一人に集めず、皆で支え合う体制を築く。それが、私の目指す王国だ」

しばしの沈黙ののち、ライルは頷いた。

「……わかりました。俺たちも、あなたの理想に賭けてみます」

その言葉に、ラトラバーシュが静かに目を細めた。

「ようこそ、“鍵を運ぶ者たち”よ。ここからが、本当の戦いだ」

塔の街の鐘が、再び鳴り響いた。 それは、運命の歯車が回り始めた合図だった。


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