その方が、都合がいいって? ただ二人きりになりたいだけじゃないか!
その時、担任の先生が手を叩いた。
「弁当を食べ終わったら、班ごとに出発していいぞ。ここから「芦ノ湖西岸歩道」という整備された道を歩けるけど、ゴールまで約3時間かかる。途中にはトイレもお店もないから、必ずお手洗いを済ませてから出発するように」
周りの班の連中が立ち上がった。
「ひろみ」
透子の声に、俺も神門臣も反応した。
「そっか神門臣さんもひろみって名前だったっけ。忘れてた」
透子が笑った。
「でも私がひろみって呼ぶのは、香月だけだから。神門臣さんは神門臣さんって呼ぶから。反応しないでくれる?」
なんだか勝手な話だけど、神門臣は素直に頷いた。
「博美、甲斐くん。お手洗い出たところで集まりましょう。さあ神門臣さん、わたしたちもお手洗いに行きましょう」
「えっ、ええ」
透子が神門臣を引っ張るようにして行ってしまった。俺もトイレに行こうと立ち上がった途端、甲斐が耳打ちしてきた。
「神門臣と先に行ってくれ」
「でも、2人一緒にトイレから出てきたらどうするんだ」
「大丈夫、何パターンか考えてあるから、問題ない」
甲斐がウインクした。
一体どんなパターンがあるのか気になったが、神門臣が女子トイレから先に出てきた。甲斐が視線の先で神門臣を追いながらニヤリとする。
「本当に神門臣は期待を裏切らないな。さあ博美くん、先に行ってくれ」
「わかった」
俺達を探してキョロキョロしている神門臣に近づく。
「神門臣、甲斐と透子が先に行ってくれって」
「なぜ?」
「そ、その方が、都合がいいんだって」
「どうして分かったの」
神門臣がちょっと驚いたように言った。
「えっ、どういう意味」
「ううん、そういうことなら行きましょう」
神門臣の察しの良さに嬉しくなって頷いた。
☆☆☆☆☆
ハイキングコースは、箱根関所資料館からすぐのところにある箱根町港を出て、桃源台のバス乗り場を目指して湖を半周する。
(本当は湖を一周するコースなんだけど、時間がかかるから今日は半周するだけだ)
両脇に木々が生い茂って、周りは自然がいっぱいだけど、道が整備されていて歩きやすい。空気もひんやりとしていて、鳥のさえずりも心地よく響いてくる。
胸いっぱいに空気を吸い込む。
するとさっきの重たい気も、軽くはならないまでも、少しは晴れる(ような気になる)。空も晴れてて……天を仰ぐと、もくもくとした雲が空を覆い始めている。
ま、まあ快晴とは言えないけど、気分は最高だ! それに隣には!
横を歩く神門臣をそれとなく見る。途端に胸がドキドキし始めた。ジャージ姿のくせに、とんでもなく可愛い。俺と同じジャージを着ているとは思えない。特に胸のあたりの生地なんか繊維の限界までふくらんでいる。ふと神門臣の目が鋭くなった。
「ご、ごめん。見てたわけじゃないんだ」
「そうなの? わたし、てっきり……」
神門臣が急に立ち止まったので、俺もつられて立ち止まる。
「本当に気づいてないの?」
「な、何のことっ?」
神門臣の手が俺の髪の毛に伸び、びっくりした俺は思わず身を引いた。
「動かないで」
神門臣の声に金縛りにあったように動きを止める。神門臣の身体が近づいてきて、心臓が限界まで鼓動しはじめた。
「か、神門臣?」




