にゃんこの爪
「よう」
ローランの屋敷に転移すると、華奢なソファーにどっかりと座ったレスターが片手を上げた。
線の細いソファーが壊れそうである。
「あら、久しぶり」
レスターはこの屋敷に部屋があるし、出入り自由にしてあるのでここにいてもおかしくはないが。
本当に自分の用事がない限りは来ないので、久しぶりに顔を見た。
「龍オリハルコン受け取ったんだがな」
挨拶もそこそこに、レスターが用件を話し始めた。
「製錬は終わって、あとは整えるだけなんだが──」
「なにか問題が?」
レスターが頷き、ソファーからミシリと嫌な音がした。
「小さな猫の爪となると格納、露出を考慮しても二センチちょいってとこだろ」
「フレスベルグの設計次第じゃないの」
「ああ、仕様書がそれぐらいだ」
「ソファーからどいて。壊れる」
「魔法かけりゃいいだろ」
私は一旦レスターを立たせ、不壊魔法を施した。
あとで全部の家具にかけておこう。
「座っていいわよ」
「おう。でな、爪なんだが……要求スペックが細すぎて叩くと潰れる」
「うん」
「根元は真円が望ましい」
「……で?」
「魔法で加工してくれ。その後に先端を加工する」
「あ、そういうことね」
「やってみたんだが小さすぎて俺には無理だった」
龍気を帯びたオリハルコンは、通常のオリハルコンより硬い。
相当な力じゃないと打てないのだが、そうすると力加減が難しい。
魔法でやるにしても精密な魔力操作が必要になる。
「あー、細いもんね」
「倍程度の大きさになればいけるんだが」
(小さすぎ、細すぎで厳しいのね……)
レスターはそう言って、小さな塊をサイドテーブルに置いた。
フレスベルグに素材として渡したものより、かなり小さい。
「ずいぶん小さい」
「だろ? 限界まで製錬したから二割だな」
(普通は半分前後になるはずだから、やはりレスターは上手い)
「これを伸ばせばいいのね」
「おう。ミニホムンクルスはもう名前も決まってるらしいぞ」
「へえ?」
「アビスブリンガー・ラグナロク」
「あび……?」
「アビスブリンガー・ラグナロクだ」
「……………………」
「省略は不可らしいぞ」
「ああ、そう……」
私はお茶を淹れ、心を落ち着かせることにした。
精密加工はフラットなメンタルでやらないと失敗する。
二時間後、加工が済んだ針金状のオリハルコンを見てレスターが頷いた。
「完璧だ」
「それは良かった」
「……完成の暁にはデジュカの涅槃岳に遠征するらしい」
「……なんで試運転が高難易度のダンジョンなのよ……」
「俺も行く」
「はぁ、そうなの……」
「ジューンもメンバーに入ってるぞ」
「え、嫌。あ、サンドイッチ食べる?」
「貰おう。だって涅槃岳って今はエルフがいないと入場できないんだろ」
「……正確には、エルフがいないと百層以降は進めなくなってる」
「なんでだ? ダンジョンコアは神族の魔核だろ」
「それはそうなんだけど、ダンジョンマスターがいるのよ」
「は?」
「神族の魔核とリンクした転生エルフがいる」
「…………」
「百階にコンビニって名前の店を出していて、その先に降りるには店の中の階段を使うんだけど──」
「…………」
「店主がエルフなんで謎ルールがあって、エルフがいないと店に入れない仕様」
「なんだそれ」
「エルフ至上主義なのよ、彼」
「ふむ」
「百層までは勝手に入れるから、そこまでにしておけば?」
「いや、あいつらなら行けるとこまで行きたがるぞ」
「それ、私には関係ないじゃないの……」
「ミシュティは同行不可だそうだ」
「なんでよ」
「何もかも快適になるから、アマネの訓練に向かない」
「確かに……」
ミシュティがいたら、食事や寝床が快適すぎてダメなのはわかる。
最初からそういうものだと思わせてしまうと、為にならないということか。
「決定事項らしいぞ」
「フレスベルグ、なんで勝手に予定組んじゃったの……」
「通常運転だろ」
「はぁ……」
人選に関しては、妥当と言えば妥当である。
全員が星核から発生した転生メンバーなので、物理的な排泄が無い。
つまり、条件が同じなのでトイレの心配がないのだ。
「まあ、完成まで数ヶ月あるだろうから」
「行けばいいんでしょ、行けば」
私はそう言って、三つ目のたまごサンドに手を伸ばした。
(野営に魔法は使わない、絶対に!)




