ロロとホムンクルス
「しかし、猫の毛皮を培養ってでたらめな技術だな?」
レスターはそう言って火酒を煽った。
結局酒盛りになったが、これは何時ものことだから仕方ない。
「企業秘密よ」
「アレだろ、フラメルの生体ホムンクルス」
「黙秘するわ」
「百年くらい連絡つかなかったことあったよな」
「…………」
その百年の間、ホムンクルス大国フラメルにいたのは事実である。
が、なんでかは言いたくない。
レスターは古代の生体ホムンクルス技術を私が持っていることに気がついていそうだけど。
(泥酔して勢いで結婚した相手が国王とか言えない……)
ちなみに国王は『人形しか愛せない変な人』だったので、完全なる白い結婚だったのだが……ホムンクルス技術を学ぶ契約結婚のようなものであった。
私は王妃だったわけだが、子供も孫も一緒に制作したホムンクルスだった。
国王が亡くなった後、王家どうする問題が浮上したのでレジスタンスを煽って政権交代して始末をつけた。
『子供と孫』は革命時の年齢に応じたボディだったが、それ以降はアップデートしていない。
大昔の話なので、彼らももう動力が尽きてこの世にはいない。
「生体ホムンクルスな、アレでロロの補助が出来るんじゃないかと思うんだが──」
レスターの使用人であるロロはいわゆるキメラであり、不具合を起こしている。
常に激痛のなかにいる彼をどうにかしたいというのがレスターの悲願である。
「本人の細胞を利用しても、難しいと思うわ。キメラはどこがどう影響してるかわからないもの」
ロロはなんで生きていられるのかわからない奇跡のキメラなので、非常に繊細なバランスであるのは明確だ。
崩れれば死んでしまうだろう。
「ダメか……」
「それがね、本人の細胞を使って作った部位でも、繋げないのよ」
「ほう?」
「適合するのは魔欠けだけなの。魔力のある者に移植はできないのよ」
「本人の魔力だろ」
私は立ち上がり、窓をそっと開けた。
涼しい空気が顔を撫でていく。
「魔臓が魔脈を形成しているのは知っていると思うけれど……生体ホムンクルスって魔臓だけは解像度が低いの。つまり、魔臓も魔脈も本人のものと限りなく同じではあるけれど、ちょっと違う」
「ふむ」
「物理的に繋いでも、微細な魔力のズレで崩れる。そう考えると、多種族で繋ぎ合わせたロロの方が奇跡なのよ」
「なるほどなぁ……そう簡単にはいかないか」
「稀に他者の魔力と干渉しない細胞を持った人もいるんだけど……人間でしか見たことないのよね」
「人間の細胞はロロに使えないな」
レスターは残念そうに呟き、新しい火酒の封を切った。
「……あ、でも培養液に浸かってみたらちょっとはマシになるかも」
「ほう?」
古代ホムンクルスの培養液は、すでに世界から絶滅している植物を数十種類使っている。
挿し芽や種を所持しているのは多分私だけだ。
なので、他人が培養液を分析・鑑定したところで再現は出来ない。
レスターに提供するのは全く問題ない。
秘密はきっちり守る男なのは、長い付き合いでわかっている。
「いきなりは全身は怖いから、片足の指ちょっととかで試してみる?」
「そうだな、やってみるか」
私は小さめの瓶に入った培養液をレスターに手渡した。
「二度漬け禁止よ。一回使った培養液は廃棄」
「これがフラメルの培養液か……」
「企業秘密って言ってるでしょ」
「そうだったな。一回使ったのは使い回せないんだな?」
「煮沸したら成分が変わる。衛生魔法で除菌したら魔力の影響でやっぱり変質するから」
「うまくいきそうだったら、定期的に用意出来るか?」
「出来るわ」
「試す価値ありだな」
レスターはそう言うと、出かけると言って屋敷を出ていった。
私は窓を閉めてから、特殊な細胞について考えを巡らせた。
(魔力干渉のない特殊な細胞は在庫として持ってるけれど……社会的に大金を稼ぐ術が無い魔欠けに、コストの大きい古代ホムンクルスは買えないし……)
「お金があったとしても、そもそも失伝してるから選択肢にも上がらないわね」
治癒魔法なら自己再生可能なのだから、わざわざホムンクルスを使う必要もない。
もちろん寿命は持っていかれるから気軽には使えない。
(でも、ロロの内部組織には黒龍素材が使われている……)
黒龍全体ではないが、大抵の黒龍は治癒魔法を反転させてしまう。
つまり、ロロに治癒魔法使うのは攻撃しているようなもの。
そううまくいかないのが現実なのよね。
ちなみに黒龍を倒すには治癒魔法が最適解ではあるが、黒龍を殺すほどの威力と量の治癒魔法を展開できる者は居ないと思う。
「私以外は無理でしょうね」
私でも、相手が成体黒龍なら治癒魔法では仕留めきれないと思う。
(幼体か若い個体ならいけるけれど……)




