チェシャとランチ②
「あらまあ。サロンが無いのはちょっと困るわね」
「安価なチェーンの毛玉屋なら、街の外……南にあるちょっと大きな村にあるんですけれど……」
毛玉屋は獣人の冒険者が、冒険後に虫や汚れなどを手早く安価に落とす最低限の身だしなみを整える場所だ。
獣人だけが出費することが問題視され、今は不公平のないよう、依頼を受けたパーティに獣人がいる場合……獣人の人数分の利用券がギルドから支給される。
毛玉屋は手頃なのが売りだが、若い女の子獣人は個人サロンに行くことが多い。
「毛玉屋だと、トリートメントとか無いんでしょ」
「はい。なので連休が取れた時に、馬で王都に行ってます。姉の家に泊まれるので」
「……それは大変ねぇ」
「辺境は獣人が多かったので、サロンには困らなかったんですけどねぇ」
手入れの行き届いたチェシャの毛並みは、本当に美しいので譲れないのはわかる。
ワインが届き、私たちは笑顔で乾杯した。
「ローランは獣人少ないの?」
「辺境に比べたら少ないです。今ちょうど新規冒険者のパーティマッチングの時期ですけれど、獣人は片手で数えられるくらいしかいないです」
組みたい相手が決まっていて、パーティを結成する者たちも多いけれど、新たに冒険者になった者で知り合いがいない場合、ギルドが定期的に行っているパーティマッチング制度を無償で使うことが出来る。
すでにパーティ経験のある冒険者は、有料だけれど。
「あー、マッチング制度ね。結構大変そう」
「そうなんですよ、分担する役割もそうですが性格もある程度考慮しないとですし」
大きな鉢に色とりどりの野菜が盛られたサラダ、取り皿がテーブルに届けられた。
ドレッシングは三種類から選べる。
「私はオニオンドレッシング」
「私はマタタビ入りドレッシングで」
「マタタビ入りドレッシングなんてあるの」
「ここ、オーナーが猫獣人なので」
サラダは新鮮、ドレッシングも酸味が抑えられたコクのある味で、とても美味しい。
「性格まで見てあげるとなると、やっつけ仕事出来ないわね……」
チェシャはナフキンで口元を抑え、頷いた。
「ポイントというか、新人さん達のマッチングにはコツがありまして」
「うん」
「男女比率は圧倒的に男性が多いんですが、どのパーティにも必ず女性を入れます」
「へえ、そうなの」
「そうなんです。男性だけだと、なんていうんですかね……疲れたとか休憩したいって言い出すと軟弱に見られるって感覚の人が多くて」
「あー、弱いと思われたくない的な?」
「我慢くらべみたいになっちゃって、休憩を入れるべきタイミングを見失うことが多いんですが……女性がいると、適切に休憩時間を取れるんです」
「なるほどぉ」
「若い子はそんな感じが多いんです。きちんとリスク管理出来そうな人たちだったら、この限りではありませんけどね」
パーティマッチングも簡単じゃないのね。
冒険者ギルドって結構手厚く色々やってるのよね。
「なるほどねぇ」
「該当者がいない場合は、他の支所のマッチングメンバーも視野に入れて組んでいくのですが──このシステムになってから、依頼達成率は上がりましたし大きな事故も減ったので良いシステムだと思います」
「そうね」
野菜のシャリシャリとした音が小さく聞こえてくる。
チェシャの口は閉じられているので、不愉快な音ではない。
(猫獣人、と言われてるけど猫そのものってわけじゃないのよね)
猫は完全肉食獣なので、野菜を噛んですり潰す形状の歯は持っていない。
獣人たちは、奥歯が少し平たくなっているのでサラダもきちんと食べられるのだ。
「マッチングが終わったら、今度は職員の個人面談の時期でして」
「忙しいのねぇ……」
金色のスープが目の前に置かれ、いい香りにうっとり。
コケットのコンソメスープは大好きなので嬉しい。
今度ミシュティとまた来ようかな。
「男性職員はギルド長、女性職員は私が面談って感じになると思うんですけれど……」
チェシャはそう言って、私を見て小首を傾げた。
「ふふ、内緒の話ね? 誰にも言わないから安心して」
そう言うと、チェシャは笑顔になりなぜかため息をついた。
「うちの受付嬢さんたち……あんまり仲がよくなくて」




