迷子の姉妹
数日後、日課となった朝の散歩をすべくローランの屋敷を出た私は郊外まで足を向けた。
この街は物理的に街の範囲がはっきり見て取れる。
石畳が途切れ、土になっているところが境目だ。
まばらに立つ住宅、畑──石畳はない。
「なるほど、郊外にいくつか村があるというのは外周にあるということか」
チェシャから聞いた話では、魔法陣の恩恵は無いが行き来は自由。
治安もそこそこよく、人気がある土地らしい。
街に沿っているので、村から街に仕事をしに来ている人も多いという。
魔法都市らしく、防衛は城壁ではなく障壁なので村と街は一見繋がった風景にみえる。
だが、見えない障壁は確かに存在している。
「…………サイズ指定型かな」
小鳥たちは自由に飛び交っているが、人間たちや馬車は決められた門から。
特に検閲はなくて、普通に出入りできているので不都合はないのだろう。
「うーん、いい気分」
朝の瑞々しい空気、早朝ではないので寒くはない。
少しひんやりした足元を見れば、朝露で靴が少し濡れている。
踏み固められた土道の脇には野花が咲いていて、幅五メートルほどの浅い川がゆっくり流れている。
土手が高いので、治水はされているようだ。
雨が降れば結構な増水になるのだろう。
この川は街を横断しているが、暗渠になっていて街中で見ることはない。
「…………」
小さな女の子が二人、土手で野花を摘んでいる。
小さなエプロンを土だらけにしながら摘む、というよりは引っこ抜いている。
(親はどこ? 川べりで目を離すには小さすぎると思うのだけれど)
二人とも三歳くらいなので、とても不用心に思える。
川は浅いとは言ったが大人から見れば、だ。
水深は大人の膝くらいまではありそうだから、幼児には危ない。
小さい子は水深五センチしかなくても、溺れ死ぬこともあるのだから。
「何のお花を摘んでいるの」
話しかけると、女の子たちは笑顔で野花を見せてくれた。
まだエルフ情報が頭に入ってない時期は、こんな無邪気に接してくれるのだ。
話す間もなく怖がられるのは慣れているが、こんなに無邪気に微笑まれると気分がいい。
おうちは、と聞くと首を傾げる。
二人は姉妹で、セラとミイというらしい。
母親と畑に出たあと、お花を摘んでる間に迷子になったようだ。
大人と話したことで、お花から気がそれたのか二人は急に周囲が自分の知らない場所だと気が付き、泣き始めた。
セラとミイに水を飲ませ、野花の根を切りそれぞれ花束を作ったあとは迷子を送り届ける作業だ。
さっきまで元気そうだった二人は急に疲れてきたのか、歩きたがらず抱っこを所望。
私は自分に身体強化をかけ、二人を抱え上げた。
重さは特に問題にならない。
(お花がある方を探してきたということは、花がある方に逆走すべきね)
しばらく歩くと、農作業中のおじいさんに出会ったので事情を話す。
おじいさんは私を見てギョッとして鍬を取り落としたが、幼児二人を見て気を取り直した。
「あんれまあ、この子らは北の村の子だなぁ」
腕のなかの二人は、あっという間に寝てしまっている。
おじいさんの反応からして、幼児にしてはかなりの距離を歩いてきたのかもしれない。
「北の村って?」
「馬車で三十分くらいのとこだな」
「この子たち、二人で歩いてきたみたいよ?」
「なんとまあ! でも……子供はこういうことやるんだよなぁ……」
「川の近くにいたから危ないと思って……」
おじいさんは鍬を持ち直し、少し離れた場所にいたおばあさんを手招きした。
相談の結果、息子さんを北の村まで知らせに出すということになった。
セラとミイは、おじいさんの家で預かってくれるという。
「あんたも疲れただろう、お茶を飲んでいきなせえ」
おばあさんがお茶を出してくれたので、おじいさんの手を借りて柔らかな布の上に姉妹を降ろす。
二人は身じろぎもせず、眠ったままだ。
「……ここらで朝の畑仕事を始めるのは日が昇った直後だもんで、そっから歩いてきたんならちょうど合う時間だ」
「四時間は経ってるわね……」
「んだなぁ。このくらいの子ならそれくらいかかるべ。道草しながらじゃ、なおさら」
お茶は炒ってあるようで香ばしく、美味しかった。
「昼過ぎに北の村のもんが、街からこのあたりを通って戻るだろうから荷車に乗せて返せばよかろ」
「ああ、なにか配達に?」
「野菜を毎日運んでる家があるからな。うちは麦だけんども」
探し回っているであろう母親には、ここの息子さんが知らせに行ってるし問題ないだろう。
これが劇や絵本であれば、私が村まで送っていくところなんだろうけれど。
現実ではそんなドラマティックな事は起こらない。
でも、それがいい。
まさに私が求めるスローライフそのものだ。
(今日はいいことありそう!)




