エルフ赤ちゃん事情
「わあ、可愛いっ」
メイサは大喜びで赤ちゃんの足を触っている。
二人目の赤ちゃんはミッチェルの甥っ子。
最後は女の子だ。
「…………」
「えっ」
「赤ちゃん笑った」
周囲は大騒ぎである。
メイサは女の子の赤ちゃんの母親から、赤ちゃんを手渡された。
「泣いてない」
「泣いてない……」
(初めて見た……!しかもメイサ!)
メイサにしてみたら、緊急事態である。
名付け子を引き当てた場合、三ヶ月はお世話のため留まらなくてはいけない。
赤ちゃんが自己防衛出来るまで、名付け親に抱っこして貰って穏やかに過ごすために。
名付け親が出来て、以降安寧に過ごした赤ちゃんとギャン泣きで過ごした赤ちゃんに差が出るわけではないのだが。
……そういう風習なのだ。
「どうしようミッチェル」
「緊急事態だから、手紙を公主に送れば大丈夫。私も署名するから」
公国の三日ルールは、届けを出せば認められる。
ミッチェルが早速メイサの代理で公国とやり取りを始めた。
赤ちゃんの母親に椅子を勧められ、メイサは腕に名付け子を抱えながら真剣に考え始めた。
赤ちゃんが泣き止んでから一時間以内に名前をつけなくてはいけないのだ。
「初代宰相のフィフティストームが残した私的文書では、最強の魔女の名前はサクラ。なんか鳥のくちばしみたいな杖持ってるって書いてあった」
「ああ、公国初代宰相の」
「女の子だし、ちょっと変わった響きだけどサクラちゃんがいいかなぁ……他に記載があったのはキュア、ナノーハ、マドカ……全部聞き慣れない名前だけど」
「…………」
(最強の魔女の記録とはちょっと違う気がする……フィフティストームの趣味なのでは……)
「よし、サクラにしよう」
こうして世にも珍しいエルフの名付け子は、サクラという名前をもらった。
サクラちゃんのお母さんにもアラクネの反物を手渡し、私とミッチェルは長居は無用とばかりに外に出た。
家の外では黄色い花冠をかぶった若いエルフが、お祝いに来たエルフたちに飲み物を配っている。
それを貰い、私たちは少し離れたところで飲んだ。
黄色い花冠をかぶっているのは、赤ちゃんの身内のエルフである。
今回は三家いるので、飲み物係も三人だ。
「…………」
焼肉を取り合って殺し合いになっても誰も気にしないが、特別な黄色い花冠をつけたエルフを攻撃した場合は万死に値する。
当然花冠側も攻撃魔法禁止。
なので、不特定多数のエルフが行き交う状況ではあるが実に平和だ。
みんな普通すぎて逆に不安になる。
「黄色天花の冠って、今でも身内が咲かせて作ってるの?」
私の質問にミッチェルは頷いた。
「そうよ、種から。花冠を被るエルフが自分でやる」
「今も昔もそこは変わらないのね」
黄色天花は珍しい花ではないが、普段は絶対に黄色ルールで使われない。
赤ちゃん関連の行事にだけ使われる、特別な花である。
種はそこらの雑貨屋で売っているけどね。
「じゃ、私は姉さんの家に行くから」
「うん、またね」
ミッチェルが向かいの家に入っていき、私は一人になった。
(私は百人以上かすりもしなかったのに、なんでメイサが……)
若干納得がいかないが、これも相性だから仕方がない。
その場に三人赤ちゃんがいるのも驚きだが、初めて赤ちゃんを見るメイサが名付け親になるとは……もっと驚きだわ。
正直、ちょっと羨ましい。
通りを眺めていると、ちらほら知った顔が見られたけれど用は済んだので、帰ろう。
私はカップを戻し、そのままローランへと転移した。
「ちょっと寒い!」
デジュカは常春大陸と呼ばれるくらい暖かいが、ローランは夏でも冷涼なので、一気に移動すると余計気温差を感じる。
──数日後、ミッチェルからの手紙で、会合後の決闘騒ぎにより四名の死者と数十人の重傷者がでたと知った。
想定内の数字なので、驚くほどのことではないが一般常識的に、やはり死に過ぎではないだろうか?
(赤ちゃん三人、死者四名なら収支はマイナスじゃないの)
もしかしたら蘇生されてるかもしれないけれど、やっぱり死に過ぎである。
まあエルフだから仕方ない。
「ふー、なんだか疲れちゃったわ」
数日はもう何もしないでおこう。
たまごサンドと凍酒で過ごすんだ。




