メイサとミッチェル
「おおーい、こっちこっちー」
レストランの奥からヒラヒラと手を振るエルフ一名。
連れのエルフはムスッとした顔で動かない。
手を振ったのは、魔女公国に住む能天気なエルフのメイサ。
黙っているのは気難しいミッチェルだ。
どちらもエルフらしくはない、異端なエルフだ。
(そもそも人間社会で暮らせるエルフが異端だから、おかしいエルフの知り合いがおかしいのは当たり前か……)
共通する点は、寛大なところだ(エルフ基準)。
変人と呼ばれるエルフたちは、そんなに怒りっぽくないし我慢強いのだ(エルフ基準)。
不愉快でもすぐ殺さず、話くらいは聞く──これが出来るだけで、エルフとしては人格者過ぎる。
そういうエルフは普通のエルフからすると、人が良すぎて逆に怪しまれるレベルだ。
まあ、エルフ同士だと魔力を推し量る能力も高いので、戦う前に勝敗が決まることも多い。
とりあえず殺し合うのは、戦わずして負けるのが許せないエルフが多いからである。
即死さえかわせば生き残れるし。
勝ったエルフが気まぐれに治癒してくれることもある。
ここ二、三千年くらいは殺すまではいかないで済ませるエルフが多いんじゃないかな。
エルフ自体が激減しているので、エルフ同士の殺し合いは控えようという共通認識があるのだ。
(もちろん素直に守るエルフはいないけど……)
「やっほ、ジューン! ねえねえ、私ローランに来るの初めてなんだぁ」
「そもそもなんで私がローランにいるって知ってるの……」
「ミッチェルのリンリンから聞いた!」
「リンリン……?」
ミッチェルと一緒に注文を済ませ、座り直した私は落ち着きなく周囲を見回すメイサにもう一度聞いた。
「リンリンって?」
「ミッチェルのメイドよ、すっごく可愛いケット・シーで……」
「ああ、ミシュティが紹介するとか言ってた子か。あなた説明が足りなさすぎるわ」
ミッチェルがメイサの話を補足した。
「リンリンがミシュティとローランに行ったって話を聞きつけて、メイサがローランに行きたいって騒ぎ出して。──まさかあなたが滞在中だとは思わなかったのだけれど」
二人はローランに着いてすぐに、緑髪のエルフが最近街にいるという話を聞いたらしい。
それでメイサが私に今ローランのレストランにいるから来いと、確証もないのに手紙を飛ばしてきたのだ。
それにまんまと誘導されて来てしまったのは、私が油断していたせいだから仕方ない。
「なんで二人で来たの」
「メイサを一人で出せないでしょう」
ミッチェルは眉間にしわを寄せ、横目でメイサをジトリと眺めた。
なんだかんだ言って、ミッチェルは面倒見がいい。
アホの子メイサに毎時間プリプリ怒りながら、お世話をしているのだ。
メイサがまだ生きているのが、ミッチェルが我慢強いエルフなのを証明している。
「……ちょっと、なんでランチの前にパフェが」
「だって美味しそうだったから」
「パフェはデザートでしょうが!」
ミッチェルがまた怒り始めた。
ご丁寧に三人分頼んでいたようで、各自の前に大きなパフェ。
文句を言いながらも、ミッチェルはパフェを食べることにしたようだ。
「んで……ローランには何を?」
「凍酒を買いに来たの。あと魔法陣用の媒体」
「ああ、魔法陣雑貨に関しては、ローランは異常に強いものね。個人店も多いし」
「仕事受けまくってたから、資材を使い尽くしちゃってさ、どうせならローランのグッズで揃えようかなーって」
(そういえば、失恋の腹いせに仕事受けまくったって言ってたわね……)
「そうなのね」
「でね、でね、このレストランを教えてくれたお兄さんがすごく素敵で──」
「…………」
「うふ、魔法陣アドレス交換したの」
「……ああ、そう。良かったわねー」
ミッチェルが心底不思議そうにメイサに質問をした。
「あんた、なんで毎回人間相手に恋しちゃうわけ?」
メイサはきょとんとしてミッチェルを見返した。
「なんでって──すぐ死んじゃうからよ? 長くても百年でしょ、ちょうどいいじゃない」
「あ、そういう……?」
「だって私、恋をしたいだけだから。恋してる自分が好きなの!」
(やっぱりエルフはエルフね……)




