明日の約束
「なるほど……」
メイサはメイサなりの恋愛観なのね。
「あと」
「なあに」
「三日ルールがあるでしょう」
「ああ、魔女公国の正魔女は三日以上連続で国外に出たらダメってやつ」
「そう、それ。明日ちょうどローラン郊外の駅に、デジュカの龍便が通るからデジュカに行くの」
「へえ」
「ジューンにもお知らせ来てたでしょ、純エルフコミュニティの会合」
「ああー、来てたわ。二千年ぶりだから来いってやつね」
メイサはランチのシチューをスプーンで頬張り、慌てて水を飲んだ。
「ジューンはいかないの?」
ミッチェルが首を傾げた。
「行かないっていうか、忘れてたわ」
「んじゃジューンも行こうよ、龍便はまだ席があったはず!」
「まあ、いいけど」
「やった! じゃあ予約入れとくね? 朝五時出発よ」
「わかったわ」
私は熱々のシチューを少し冷ましてから、口に運んだ。
メイサのようにいきなり口に突っ込む勇気はない。
「私は届け出をして、十日程デジュカに残るんだけど」
ミッチェルが生真面目な顔をして、話し始める。
「そうそう、ミッチェルのお姉ちゃんが赤ちゃん産んだんだよねー! ジューンも見に行くでしょ?」
エルフの赤ちゃんのお披露目は、他種族とはちょっと違う。
生後三ヶ月までに、いろんなエルフから祝福を貰えれば貰えるほど良いのだ。
母親を休ませるとかそういう配慮はない。
赤ちゃんは見せびらかすものなのだ。
近くまで行って、赤ちゃんがいるとわかっていれば行かないエルフはいない。
「ほー、性別は?」
「男の子よ」
「なるほど」
出産祝いのような風習はないが、なにかしら持っていく必要がある。
エルフの場合、子の誕生を祝って贈り物をするのは身内だけ。
他人は、子の母親にプレゼントを持っていくのだ。
「私は入浴剤作ったの」
「いいわね、私はアラクネの布一巻にしようかな」
「アラクネの布! それは嬉しい」
「姉は着道楽だから喜ぶと思うわ」
「ミッチェルは?」
「私は身内だから、現金と子供服数十着」
エルフの子供はとにかく服が必要。
成長はゆっくりだからサイズアウトの心配はないが、魔力操作ができないので泣けば服が燃え上がったり、ズタズタになってしまうのだ。
「ああ、服……」
「ちょうど会合のある街郊外に、子育て用の家を建てたばかりだから」
「土壁のアレね」
子育て用の家はすぐに補修出来るよう、土魔法で簡単に作るのがエルフ式だ。
もちろん分厚い障壁で近所に配慮している。
赤ちゃんや幼児は癇癪を起こせば、家が爆発することもあるから。
「ちょっと……ケーキなんていつ頼んだの」
「デザートよ、デザート!」
私とミッチェルは遠慮した。
大喜びでケーキを三つ食べたメイサは、満足そうにため息をついた。
「あー、幸せ! じゃ、私たちは魔道具屋さんに行くわ」
「朝五時ね」
「じゃあ明日ー!」
メイサは元気よく全員分の支払いをし、小走りで店を飛び出したがミッチェルが杖で足を引っ掛けたので盛大に転倒した。
そしてギャンギャンと説教されながら、メイサは商店街へと向かっていった。
(アラクネの布は何色がいいんだろう。本人見てから決めるか)
こういう突発的なことがあるから、色々と在庫を持っておくべきなのだ。
買える時に買っておく──生活の知恵ね。
アラクネの布なら自分の服も作れるし、子供服も作れるから他人からのお祝いとしては及第点じゃないかな。
(備えあれば憂いなしねっ)
すっかり重たくなったお腹を抱え、私はのんびりと屋敷まで歩くことにした。
空は晴れ渡り、石畳からは微風が舞い上がっていく。
ここまで徹底管理するなら、雨や雪も防げそうなものだけれど。
一応そういう設備はあるらしい。
災害レベルにならないと、街を障壁で覆うことはしないという話だ。
これは出来ない、ではなく単にコストの問題。
魔核もタダじゃないからね。
人力でどうにかしようと思った場合、街全体を覆う障壁を維持するには数十人の魔術師が必要になる。
あくまでも、緊急用のシステムと言える。
「いい天気。今日はひよこ島に戻ろうかな」
私はそのまま、ひよこ島に転移した。
「……どうしたの、それ」
ミシュティの頭の上に黒い鳥が鎮座している。
ミシュティは気まずそうに口を開いた。
「フレスベルグの雛です」
「ああそう、えっ」
「フレスベルグの雛です」
「…………」




