小さなカフェ
店内は薄暗く、古い木材の匂いがした。
奥はそれなりに広くて人の気配が複数あるが、入口からは見えにくくなっているのかな?
一見、とても狭いように錯覚する作りだ。
(奥は……テーブル席かな)
出入口のすぐそばには、よくあるタイプのカウンター。
その中カップを拭いているのは、お爺さんだ。
(あれ、本当にカウンターだけの店だわ)
あらためて奥をみると、ちゃんと壁がある。
「いらっしゃい」
「冷たいコーヒーを」
注文を済ませると、お爺さんが豆を挽き始めた。
その間に気になる奥の壁を、そっと観察する。
(入った時に繋がってると感じたのは、エルフの鋭敏な感覚と経験値からね。実際は壁がある……壁が見えている)
魔欠けエリアに入るときは、自分を魔力遮断の薄膜で覆っている。
薄膜の下で自身を強化する分には、魔力を使っているとはわからない。
索敵魔法は自分の感覚を強化してから、外に微弱な魔力を拡散させて反応を見るやり方が多いのだが……。
今は自分の目と耳、嗅覚や触覚全てを強化しているだけだ。
豆を挽く音は消え、コーヒーのいい香りが漂ってきた。
少し経って私の前にアイスコーヒーが出される。
「どうぞ」
「ありがとう」
グラスの中には透明な氷と香りのいいアイスコーヒー。
(この氷は魔力で出した氷ね……)
氷を作る魔道具だと、透明にはならない。
透明なのは魔法で出した氷か、特殊なやり方で作られたものだけだ。
この場合、特殊な工程で作られた氷を使っているとは考えにくい。
そういう氷は高いし、儀礼用に作られるものなので流通もしていないから。
(魔欠けエリアで、氷を出せる人がいる……)
目の前のお爺さんを見る。
「……氷はあなたが?」
「ええ、私が出しました」
お爺さんはにっこりと微笑んだ。
「魔欠けエリアには、魔欠けの人しかいないのかと思ってたわ」
「ははは、魔欠けにも家族がいますから。その家族は普通に魔力がありますよ」
「それもそうね」
確かに、家族と一緒にいるのが当たり前だ。
魔欠けエリアは隔離区域ではなく、魔欠けの人が不便なく暮らせるよう配慮されている区域だもの。
なるほど、家族──確かに魔欠け以外の人が、この区域にいる理由にはなる。
(奥のスペースにある気配は五人。どの人も高魔力……)
なんの変哲もないカフェ。
儲かりそうにもない場所に、ひっそりと存在している。
ここは魔力遮断してなくても、影響はなさそう。
遠慮なく魔法で探らせてもらおうかな。
「…………」
(このエリア、この条件で高魔力者が五人……なんで魔欠けエリアで集まるのかしら。逆に目立つんじゃないかしら……)
どうやら、奥の壁は仕掛け壁らしい。
魔法ではなく完全に物理的なものだから、同一空間と勘違いしてしまったのかもしれない。
奥の人たちは、私が魔力を遮断しなくなった瞬間に落ち着かなくなったようだ。
立ち上がり、周囲を窺う気配がある。
(周囲の魔力を即座に感知する……感知魔法を展開中、もしくは魔道具。普通にお茶飲みに来てる人ではないわね……)
もちろんなんとなく肌で感じる、相手の魔力という勘のようなものはある。
ただ即座に反応するとなると、それなりの準備や心構えが必要。
つまり、奥の人たちは警戒中であったということだ。
「美味しかったわ」
私はカウンターに料金を置き、店の外へと出た。
隠し部屋があったのは、純粋になぜ?という興味があるけれど。
厄介事に首を突っ込むのは嫌だから、関わらないほうがいい。
外には畑があるので、もう一度魔力遮断をしておく。
(でも魔術師が普通にいるなら、わざわざ私が魔力遮断はしなくていいのかもね)
そもそも、それが必要な畑自体に魔力遮断障壁が設置されているわけだしね。
「……んー」
奥の部屋にいた人たちは、いったい何なのだろうか。
ただの魔術師や人ではないのは間違いない。
何故なら、今まさに……私じゃなければ気が付かないであろう精度で尾行されているからだ。
(気配の消し方、足音のなさ、距離の取り方……これはプロよね)
カフェでコーヒー飲んだだけで、変な集団にマークされてしまったのだろうか。
面倒なので、消し去ったほうがいいのだろうか。
今追いかけてきている一名、遠くで観察している二名。
残り二人はまだ奥の部屋に居そう。
(いや、五人を消しても店主が……店主ごと抹殺はちょっと)
いや、もう放置でいいか。
後ろ暗いところはなにもないもの。
(この街ではね)




