魔欠けエリア
「よし、行くか」
今日はローランの魔法陣保全協会開発部の方々と面談の申し込みがあったので、冒険者ギルドの会議室でお話をするのだ。
なにか聞きたいことがあるそうで。
私が会議室に入ると、すでに全員揃っていた。
「偉大なるエルフをお呼び立てして、まことに申し訳ありません」
保全協会の五名は揃って深々とお辞儀をした。
男性三人、女性二人。
全員若くはなくて、人間のように見える。
鑑定を無断でやるのはマナー違反なので、見た目からの印象で。
「いいのよ、来たくなかったら来ませんから」
「寛大なお言葉、ありがとうございます」
チェシャが同席しているので、メモは取らなくて良さそう。
必要そうだったら報告書を貰えばいい。
「で、聞きたいことって?」
「蠢根樹を包んで折ったという一連の魔法を見せていただきたく……」
代表者が丸太を取り出し、テーブルに置いた。
「同じことをやればいいの?」
代表者が頷いたので、女性が魔力感知の魔法陣をテーブルに展開するのを待ち、極薄魔力遮断膜で自分と丸太を包み込む。
遮断膜が完成したあとは、内側から障壁を形成して丸太側の空間を作業用に広げていく。
充分なスペースが出来たあとは、両端に重力魔法をかけて折る。
「おお……」
「本当に報告書のとおりだった……」
保全協会の魔術師たちは、騒然としてあれこれ一斉に話し始めた。
「魔法陣は魔力感知できませんでした」
「完全遮断か……」
しばらくして、落ち着いた魔術師は目をキラキラさせながら私を見た。
「──いや、理論はあったんですよ。魔力を遮断して、排除の」
「そうね、簡単に思いつく案だもの。魔術師のあなた達ならすぐに思いついたんじゃない?」
「はい」
「ですが、理論は確立していても実行できる者が居なかったのです」
「まず完璧な魔力遮断……凹凸の大きい根まで包み込む。これは本当に難しい」
「更にそれを内側から膨らませ……その間も遮断魔法に一片の乱れもない」
「その上、重力魔法ですから……多重に魔法を展開するのは我々には不可能でして」
「一応試したんですけどね、三人必要でした」
「ですが、人数を増やしたせいで魔力遮断が難しく……」
私はなるほど、と頷いた。
魔力を漏らしてはいけない状況で、分業でやるとしたら確かに難易度が上がりそうだ。
その人の魔力に合わせた遮断が必要になるから、三層で包まなければいけない。
更にそれらを干渉し合わないよう調整も必要になる。
「一人だから出来たんだと思うわ」
「ですね。単独であることが条件であるならば……正直我々には無理ですね」
「まあ、エルフは魔力操作が得意だからだと思うわ。蠢根樹ももう居ないし、良かったわ」
エルフの中でも魔法にかけては誰にも負けない自負はある。
魔力操作にも自信があるが、一々言って回って面倒事が舞い込むのも御免だ。
「はい。どうにか保全協会で再現できないか、会議にあげてみます」
魔術師たちはワイワイと打ち合わせをしながら帰っていった。
それを見送ったチェシャは、あらためて私に向きなおり口を開いた。
「簡単そうに思ってましたが、とても難しかったんですねぇ……」
「そうねえ、複数でやると難易度が上がるパターンね」
チェシャは書類をトンッと音を立てて揃え、呟いた。
「ジューンさんだから、出来たって事ですね」
「そうね、今のタイミングでこの街にいるのは私だけだっただけね。条件を絞って時間をかければ、可能な人は探せると思うけれどね」
「そうですか……適材適所ですね」
用が済んだので、帰り道ではのどかな魔欠けエリアでリフレッシュしよう。
あそこには畑に果樹園があって、小さな村みたいな雰囲気だ。
石畳のない土を踏むのは、気分が変わっていいかもしれない。
二、三時間程度で歩ききってしまえそうだけれど。
すれ違う人には少し身構えられたものの、騒ぎになることはなくゆっくり周囲を観察する。
(あれ、カフェ……?)
魔欠けエリアの最奥の通りに、小さな看板が立てられている。
住宅に混ざっているので見落としそうだ。
「喉も乾いたし」
私は小さなカフェの扉をぐいっと押した。




