デュラハンの家庭の事情
「……というわけで、この本にサインをくれ」
私の目の前にいるのはデュラハン族の青年だ。
久しぶりに魔界で買い物をしている時に顔馴染みに会ったので、そのまま一緒に昼食を取りつつ話を聞いている。
曽祖父の一万歳の誕生日に、暴虐の女王のサインが欲しいらしい。
「まあ、いいけど」
金髪碧眼の王道美男子であるホルスは、嬉しそうに笑い肉汁滴るステーキを口に運んだ。
ちなみに胴体と首は魔道具で接続されていて、落ちることはない。
デュラハンが首を片手に抱えているのは、正装の時だけである。
式典とか、イベントではみんな魔道具を外して生首を小脇に抱えているのだ。
普段なぜそうしないかと聞いたことがあるが、理由は単純だ。
単に不便だからということらしい。
「でさ、フレスベルグが最近忙しいらしくて」
そう、このデュラハンはフレスベルグの友人でもあるのだ。
「フレスベルグは魔王をやって忙しかったからじゃない?」
「まあな、生き別れの弟を引き取ったって仲間内では噂になってる」
「生き別れ、の、弟……」
あながち間違いではない。
フレスベルグが子育て中なのは確かだし、関係性は親子というよりは兄弟だ。
「俺、あの子が倒れてた時一緒にいたんだよ」
「あら、そうなの」
「肝試しでメア大陸の悪名高き廃施設に行った時、俺も居たから」
「ああ、そんな話だったわねぇ」
「死んでると思ったら……フレスベルグがまだ生きてるって叫んでどっか転移していったんだけど、助かってよかったよな?」
「そうね」
「どこに行ったかは知らないけど、その子が生き別れの弟って話だよ。髪が黒かったし」
「本人がそう言うなら弟なんじゃない?」
「だよなー。そうそう、俺やっと就職してさ」
ホルスはフレスベルグより年上で、確か七百歳くらいだったはず。
魔物を狩って売却することが出来れば、定職につかなくても生きていける社会構造だけれど、就職したのね。
「あら、おめでとう」
「驚異の殿堂ロシナンテにね」
「大手ね」
「親が就職しろって喧嘩になって」
「うん」
「寝てる間に身体隠されちゃってさー」
(寝る時は魔道具使わないのか……)
うん、大きな販売店だし『大手』である。
親御さんも安心したんじゃないだろうか。
デュラハンが就寝時、首と身体がバラバラなのは初めて知ったわ。
奥が深い……。
「……その場合、どうやって身体を探すの」
「どこにあるかはわかるんよ、だから身体の方を動かすんだけど……身体が地下牢で出られなくて参ったよー」
「自宅に地下牢が?」
「デュラハンの家には大体ある、オヤジもたまにやられてる」
「お母様に?」
「そう」
「頭のほうが運びやすそうだけどねぇ……」
「頭のほうは触られたら目が覚めるし、魔道具で接続してれば身体もわかるんだけどさ。自宅で寝てるときはやっぱりリラックスしたいから、ついつい外しちゃうんだよねー」
「え、バラバラの方がリラックスした状態なの」
「そうだよ、式典参加とかで自宅外で外すときは……」
ホルスはそこで一旦食後のコーヒーを飲んで、満足そうに座り直した。
「デュラハンが正装時に首を持っているのは、揉め事回避なんだよね」
「そうなの?」
「うん。片手が塞がってたら、即座に戦闘態勢に入れないだろ」
「……そう? ああ、デュラハンは基本剣士だものね」
「魔法も使えるけどね、首はくっついているほうが戦いやすいよ」
「なるほど、エルフの黄色ルールみたいなものか……」
「そうそう。エルフのあのルールも不思議だよね、黄色付けててもエルフの機嫌次第では殺されるってあたりがスリリング過ぎる」
「あのルールは相手のエルフに敵意はないと示すだけ。黄色い服を着て油断させておいて先手を取るエルフもいるから」
「なにそれ怖い、さすがエルフ」
私はポチの巣から回収した龍鉄鉱石を渡した。
もちろんホルスは狂喜乱舞だった。
「嬉しい!」
「就職祝いよ、大剣作れるくらいはあるから」
「龍鉄の大剣とか、マジで嬉しい。ありがとう」
昼食の料金も私が支払い、お礼にホルスの頭を持たせてもらってから、私はホルスに手を振りひよこ島に戻った。
(デュラハンが頭を持たせるのは最大限の感謝の証らしいけど……)
エルフに頭を持たせてもいいのだろうか。




