町並み
「…………意外と閑静ではないのね」
古都ローラン、佇まいは静謐で風情があるけれど実際住んでみると意外に賑やかだった。
拠点からギルドなどが集中している中心地との間に、小さな住宅街と学校がある。
昔は領主の庇護があったのであろうその住宅街は、他区域の住宅街とは違う構造をしている。
唯一、地面に魔法陣が無い一画でもある。
(住宅街から少し離れたところに発電所。この一画にだけ埋設された電線──魔欠けの居住エリアね)
雷核を電力に変換し、各世帯に供給しているのだ。
そこを超えて歩を進めると、子どもたちが通う学校がある。
規模は小さく、通っている子たちは全員で五十人も居ない様子だ。
ローランという街は、恐ろしく子供が少ない街なのかと思いきや、そうではないようだ。
チェシャから聞いた話では、一般家庭の子たちは近隣の村と合同の郊外学校に行っているようで、私の屋敷から近いこの学校は魔法陣や魔法を学ぶ子供用らしい。
少数精鋭の、いわゆるエリート学校といった位置付けである。
(通りすがりで見ただけだけれど、五歳くらいから思春期前くらいの子供が対象っぽいのよね……)
上級学校に入る前の子はここで学び、その後は中心地に近い場所に位置する上等魔法学院へ進むのが通常ルート。
十五歳から通う上等学校や学院は各地にあるけれど、ローランの魔法学院はその中でも最難関と言われている。
最初に持った印象とは違って、賑やかな面もあるようだ。
「魔法都市とは言っても、生活している人がいれば生活感は排除できないってことか」
少し落ち着かないのは、各家の庭以外に植物がないところ。
植物を配した公園もないし、街路樹もない。
もちろん綺麗に整備された石畳には雑草もない。
(効率化を目指したらこうなるのはわかるけど、目には寂しいわね)
魔欠けエリアはそこまで管理された雰囲気ではなく、小さな畑もある。
私はお婆さんが水やりをしている畑の前で立ち止まった。
「野菜かと思ったら、魔震薄葉か」
私の声に、老婆は振り返り腰を伸ばしてこっちを見た。
一瞬ギョッとした顔をしたが、少しだけ老婆の口元が緩み、ゆっくりと口を開いた。
「おやまあ、新しいエルフさんかい」
どの街に行ってもギョッとされるのは慣れている。
ローランは驚いたり嫌がるような人より、他者に無関心な人が多いので、老婆の反応は普通すぎて逆に安心する。
「はい。こんにちは」
「こんにちは。貴方は旧領主館に来たエルフさん?」
「はい。近所を散歩してたら畑が見えたので……」
老婆は足元の風に揺れる魔震薄葉を見下ろし、にっこり微笑んだ。
「よく育っているでしょう? 畑の周囲に学者さんたちが、魔力遮断の障壁を作ってくれてるの」
「ああ、そういうことなのね」
魔震薄葉は、白っぽいくすんだ緑の草で名前の通り透けるように薄い葉を持っている。
八枚の葉がつけば収穫出来るが、発芽から収穫まで魔力に当ててはいけない。
もちろん育つには育つが、人が無意識に出す魔力や魔法を用いた肥料で品質が下がっていくのだ。
魔力の介在しない土壌で、魔欠けが育てる魔震薄葉──間違いなく最高品質だろう。
迂闊に畑に踏み込まなくて良かった。
私は半歩畑から離れ、安堵の吐息を漏らした。
「魔震薄葉は育てるのが結構難しいと思うのだけれど……」
「そりゃあエルフさんには無理でしょうね」
「そうね、収穫後なら触っても問題ないけど生きてる魔震薄葉は……エルフは絶対無理ね、枯れちゃうもの」
「そのおかげで私らが日銭を稼げるってことさ」
葉が薄いので日に何度も水やりをしなければいけないし、魔欠けでも楽に育てられる植物ではないけれど、いい収入源になるなら街の経済はうまく回っているのだろう。
(魔欠けエリアを歩くときは自分に魔力遮断かけておこう……)
よく転移者や転生者に聞かれるのが、魔力の有無や質で迫害されないのか?という部分だ。
もちろん、過去にはそういう時代もあった。
(数万年続いている文明だから、転生者たちが思いつくようなことは既に起きて、終わっちゃってるのよね)
魔法があるからこそ、滅びず生き残っている文明とも言える。
人間だけの文明ではなくて長命種も存在しているのも、大きな要因。
今でも国家レベルでは、建国と滅亡が繰り返されているけれどね。




