地下水路③
二本目からは綺麗に折ることが出来たので、その日のうちに蠢根樹四本全てを地下水路から排除した。
根が刺さってた部分は預かってきた旗を立て、地図におおよその場所を書き込む。
「意外とすぐ終わったわね、んー北の出口のほうが近いか」
歩いているうちに北側まで来ていたようなので、北から出ることにしよう。
端まで来ると、南側と同じように人形が立っている。
カードキーを差し込むと、バン、という音が響き階段の上から陽光が零れ落ちる。
小屋の中から入るのではなく、出入口がただの鉄蓋なのは効率のためだと思うけれど……。
不具合が起きた時って、どう対処しているんだろう。
(そこそこ厳重に入場制限をかけているから、誰が地下水路にいるか管理側で把握してるのかな……)
まあいい。
地下水路に転移は不可、ということだけ覚えておこう。
再び行くような用事もなさそうだけれど。
そのまま冒険者ギルドに行って、報告を行う。
チェシャは忙しいようで、今回は一時間待った。
「お待たせしました! 本当に申し訳ありません……って、どうされました? 先ほどカードキーをお渡ししてから四時間──トラブルでしょうか」
「いいえ、終わったから報告に来た」
「…………」
一瞬、チェシャは口を噤んだが何事もなかったように、用紙を広げて聞き取り態勢になった。
「蠢根樹を排除した地点は地図に。旗も立ててあるわ」
「地下水路魔法陣に干渉せず討伐出来て何よりです。明日以降、保全協会側の確認が済んでから依頼完了となります」
「それでいいわ」
「ちなみに、方法をお伺いしても?」
「自分ごと蠢根樹を障壁で覆い、魔力を遮断したうえで、引っこ抜いて折っただけ」
「なるほど……? なんか簡単そうに聞こえますが」
「ちょっと時間はかかったけど、難しいわけじゃないのよ」
「そうですか……。魔法陣保全協会側へも報告書の写しを渡すのですが、なんて書いたらいいんでしょう」
「対象を膜状の魔力遮断障壁で覆ったうえで、重力魔法により幹を折損させ排除……でいいんじゃない?」
「その言葉そのまま使わせていただきますね。難しい魔法理論はあまり得意じゃなくて上手い表現がパッと出てこなくて」
チェシャは恥ずかしそうにそう言って、少し癖のある美しい文字で報告書を埋めていった。
「保全協会側には私の名前を出さないで」
「はい、ではこの場で身元秘匿希望の判を押しておきます」
チェシャは二枚あるうちの一枚に、ペタリと魔道具で判をして満足気に頷いた。
魔法陣保全協会側に提出する分は、ギルドの書式とは違うようだ。
外部に出すものは、正規の報告書を簡略化したものといったところか。
「あ、蠢根樹要る? 折るのに失敗して潰れちゃったヤツならあげるわよ」
「よろしいのですか? では後方部署で査定をして、ジューンさんのギルド口座に入れておきますね」
(売り物になるのかしら……)
訝しげな顔の私を見て、チェシャが微笑んだ。
「蠢根樹は、どんな状態でもいいんです。素材はもちろん、加工すれば媒体としても需要がありますので」
「あ、触媒としてならアリね」
「はい。医療分野で人気なんです」
「医療……」
樹液の性質を利用して、大昔に骨折後の固定に利用されていたのは知っているけれど。
今もそうやって使っているのだろうか。
今度機会があったら調べてみよう。
「なんでも魔力反発を利用して、義足や義手になるみたいですよ」
「へえ……」
外に出て、帰り道を歩きながら義足について考察を巡らせる。
(何かで読んだ記憶はあるけれど、蠢根樹だったのね)
義足、義手を選ぶ者は意外と多い。
治癒魔法は代償が大きいが、失った手足を再生させることが出来る。
年数が経った欠損も、患者が支払う代償が大きくなるが生やすことはできる。
(代償は、自身の細胞の前借りという寿命だから、治癒魔法を断る人も多いのよね)
性能のいい義足や義手は、相当高額だとは思うが寿命を削るリスクは避けられる。
なので治癒魔法の行使は、医療的な手当てが間に合う最低限しか行使しないのが一般的。
「魔法のある世界で、薬局や病院みたいな施設があるって……なんだか不思議よねぇ」
しかも、小さな医院、大きな総合病院があって医師もしっかり細分化されているのだ。
魔臓内科、魔臓外科、魔臓魔脈科みたいにね。
(魔法が働く場所を奪わないのはいいけれど、魔法って絶妙に万能じゃないのよね……)




