地下水路①
少し時間を置いて、私が冒険者ギルドに行った頃には受付の仕事は一段落している様子だった。
受注と報告がある朝と夕暮れから夜にかけて忙しいのは、どこの支部でも一緒だ。
「お待たせしました。こちらが許可証と鍵になるカードです。三日間有効となってますが、以後はギルドで更新できます」
私は許可証とカードキーを受け取り、チェシャに挨拶をして外に出た。
「南端にある水門横の小屋か、北にある建物から入れるのか……どっちから行こうかな」
視線を足元にやると、靴の先は南を指している。
距離的にはどちらも変わりがないので、せっかくだから靴の言うとおり南から行こう。
貰った資料によると東西にも出入口はあるようだが、私には許可されていない。
(隠したところで、私にとっては意味がないけど)
許可があろうと無かろうと、私は見たいものを見てしたいことをすることが可能だ。
けれど、それをしないのは私が常識のあるエルフだから。
私はちゃんとルールを守る、いいエルフなのだ。
南端に辿り着き、外に目を向けると幅四メートル程度の川がある。
水は街に入る手前で、地下に落ちていっているようだ。
(なるほど、暗渠か。流れ続ける水は魔法陣を揺らす。だから川は街の下を通らせているのね……)
そうなると地下に流れる川は、土管などで完全に制御されているはず。
蠢根樹が彷徨いているのは、そこ以外の平らな場所だろうか。
「あ、平らじゃなくても良いのか……根を刺すだけだし」
資料を見る限り、地下水路は街全体を網羅しているので地上部分とほぼ同じ広さだ。
一直線の川部分が占める割合は僅か。
他は取水、下水処理などの施設が点在している。
南北の出入口からはそれらの施設に接触することは出来ない。
「水門、無人かぁ」
一応水門前には魔導人形が立っている。
ホムンクルスとは違って、魔技巧品の部類に入るので、大枠で魔道具と言っていいものだ。
この人形の胸部にカードを差し込めば地下への扉が跳ね上がる仕組みか。
(人形の役目は……侵入者の排除と警報か。よく出来てる)
持たせる役目は単純なほど不具合が起きないので、これでいいのだ。
水門の周囲に攻撃と捕縛の魔法陣が仕込まれているので、人形と連動していると思って間違いはなさそう。
効率的でよく設計されている。
重そうな鉄蓋が跳ね上がり、階段が見えた。
ゆっくりと閉じていく蓋に挟まれないよう、さっさと中に入る。
階段を下りた先にもう一体の人形があり、これは帰る時に蓋を開けるためのもののようだ。
私は目に纏わせている魔力をグッと減らし、周囲を眺めた。
「わぁ……」
普段は魔力で抑えているが、私の目は魔力を色付きで見ることが出来る。
地下水路は魔眼を開放した目で見ると、まるで万華鏡のようだった。
(綺麗だけど目が疲れる……!)
しばらく絶景を楽しんだあと、私は再び目の魔力を調整して視界の邪魔にならないようにした。
何千年も調整しながら生きているのだ、今となっては息をするようにスムーズだ。
「やっぱり土管かぁ」
目の前にあるのは太い土管。
魔法陣がびっしり彫り込まれている。
「ふうん、強度アップ、撥水、浄化、軽度殺菌……意外と普通ね。ああ、そういうことか。川の生き物がそのまま流れてるのね」
土管のなかには小さな気配があり、水棲の何かがそのまま通過できるようになっているのか。
川は川のまま、街に入って出ていくシステム。
どこかで取水はされているけれど、基本は自然の営みを崩さないやり方を取り入れているのは、魔法都市としては少し意外だ。
「一体どういう理念で構築された街なのか……面白いわねぇ」
地下水路とは言われたが、水は土管の中。
汚水もおそらく同じように管理されているだろうから、足元に水なども無いし匂いも無い。
時折蜘蛛や小さな昆虫を見かけるが、ネズミなどの小動物は隠れる場所がないからか見掛けない。
結論として、非常に管理の行き届いた地下設備である。
「さて、問題の蠢根樹たちはどの辺にいるのかしら」
波紋のように魔力を広げ、索敵していくとあちこちに反応がある。
(意外と地下で作業している者が多いけれど……人の気配は東に集中しているから、蠢根樹はきっとそこ以外の区域ね)




