翌朝
「…………さま」
「ジューン様……」
「うーん、ミシュティ……あと十分……」
「ジューン様!」
「んあ?」
私は飛び起き、ミシュティとフレスベルグ、アマネが呆れたように佇んでいるのを視認した。
どうやらソファーで寝落ちしていたようだ。
「あ、ごめん。着替えてくる……」
そそくさと二階の奥の部屋へ上がり、着替える。
鏡を見たら髪がぐちゃぐちゃである。
ブラシで髪を整え、身繕いを済ませてリビングへ。
「飲んだくれてソファーで寝落ちとか、もはやオッサンじゃねーか」
フレスベルグが笑い転げている。
「……否定はしないわ……」
私がすべき事はフレスベルグとアマネの滞在許可だけである。
昨日寝る前に防犯魔法陣は解除してあったので、新たに魔力紋を登録して起動させればいいだけだ。
「フレスベルグは宿泊費銀貨一枚ね。アマネはギルドで稼いだ二割。この豚さんに入れるのよ」
「豚の貯金箱……こっちにもあるんだな」
「名前書いてある」
二人は貯金箱を受け取り、確認してから再度リビングの棚に戻した。
「アマネは行けばわかるようになってるから」
私の言葉に、フレスベルグが少し考えてアマネに言った。
「なら、今日からアマネが転移していいのは家とひよこ島とステファニーの本屋と、ここな。それ以外はまだダメだぞ」
「えー……、わかった……」
アマネは不満そうだが、素直にうなずいた。
アマネを連れてフレスベルグが出ていったあと、私はミシュティに話しかけた。
「よくあの好奇心の塊みたいな子が転移制限を守ってるわねぇ……」
ミシュティはにっこり微笑んで、口を開いた。
「フレスベルグ様からの依頼で、アマネさんに転移を教えた時に水中や岩の中に転移させました」
「ブハッ」
私は飲んでいた水で噎せた。
「迂闊に転移すると、そういうことになると初撃で伝えたので」
「ああ、そう……」
「おとなしい気質の子なら、座学で充分ですがアマネさんのような子は体験あるのみです」
「なるほど……」
「それに妙なところに転移しても、慌てず対処できる訓練にもなりますから」
「ああ、そう……」
龍人の子であれば、水中や地中深く埋まっても即死レベルの脅威にはならないけれど……ミシュティは中々スパルタ教育のようだ。
でもそれが効いて約束を守っていられるなら、それが一番安全への近道だから最適解と言ってもいい。
私ですら未確認の場所にいきなり転移はしないもの。
「では私は仕事に戻ります」
「そう、ありがとう。夜に一回ひよこ島に帰るわ」
「かしこまりました」
ミシュティがひよこ島に戻り、私は持っていたカップから水を飲み干した。
とっ散らかっていたソファー周辺は、いつの間にか綺麗に片付けられている。
(やっぱりミシュティに一日一回位はこっちに来てもらおうかな……)
もう一度ソファーに寝そべり、たまごサンドを食べていると玄関から騒がしくフレスベルグたちが帰ってきた。
「あら、もう登録は終わったの?」
「うん! 依頼も受けた!」
「俺もー」
「何を受けたの? あ、言いたくない場合は言わなくていいのよ。冒険者には、他人の受けた仕事は無理に聞いてはいけないという暗黙のルールがあるから」
「そうなの? 気をつける。僕が受けれたのは採集系だけだった! 家事のお手伝いとか話し相手の仕事もあったけど、チェシャが採集系にしとけって言うから」
「しばらくはチェシャの勧めてくれるものにしておくといいわ」
「うん。家事は物を壊したら弁償になっちゃうし、話し相手は……今、僕にちょうど良さそうな人からの依頼がないって」
アマネはそう言うと、商店街でフレスベルグが買ってくれたという採集袋と軍手、小さなシャベルを見せてくれた。
早速採集に向かうようだが、フレスベルグもついていくようだ。
(ちゃんと保護者してる……)
二人とも時空庫持ちだから、実はそんな物は必要無いと気がつくのはいつになるのか。
まあ、普通のやり方……基礎を知っておくというのは悪くない判断だ。
高ランクのフレスベルグが同じ依頼を受けたというのが笑えるけれど。




