冒険者ギルドへ
「今一番優先度が高いのは地下水路なんです。四年前から問題になっていて、塩漬ってほどではないのですが」
「へえ、地下水路……」
「蠢根樹です。四年前に数本芽を出してまして、今は立派な若木になってます」
蠢根樹は文字通り、根がわさわさと動いて移動する樹木だが、トレント族とは違って植物なのでコミュニケーションが取れるものではない。
素早く動くわけではなく、数ヶ月で一歩進むとかそんなペースで、人を襲うような攻撃性もない。
ただ、魔法陣だらけのこの街の地下水路に根を抜き差しされたら、大損害なのは一目瞭然だ。
(移動方法が問題ね。歩くわけじゃなくて根を抜き差ししていくから……)
「地下で育つとは……」
「おそらくですが、研究過程で種が流出したものと思われます」
「それが数本。よほど環境が合ってるのね……」
「ペースが遅いので、開いた穴は埋め戻して魔法陣を修繕して対処してますけれど……」
「今は、ね? 蠢根樹は確か十年で五メートルくらいになる木よね」
「そうなんです、これ以上大きくなるとちょっと。硬すぎて伐採も難しい。切ろうとすればさすがに攻撃してきますし……そうなったら魔法を反射してくるので対処できる人がいなくて」
「ふうん?」
「あ、いえ正しくは魔法陣に干渉せずに排除できる手立てがないってところですね」
チェシャが言葉足らずと思ったのか、小さな声で補足した。
「なるほど。じゃ、その依頼は受けるわ。龍人の子供の件はそれで手打ちね」
「はい。お任せください! では地下水路への入場許可を申請しておきますので、明日また来ていただければ」
「わかったわ」
蠢根樹が陽の差さない地下で育っている理由も知りたいし、地下水路の魔法陣にも興味がある。
退屈しのぎにはうってつけね。
私は賑やかな冒険者ギルドを出て、空を見上げた。
(蠢根樹は半陰性植物だから、日陰で十分に育つけれど……全く陽が差さない地下ってのが問題よね)
山裾の屋敷に戻り、アマネに手紙を書いて飛ばしたあとは買ってきたものを広げて昼飲みである。
「おお、このたまごサンド……かと思ったら厚焼き玉子なのね。これはこれでいける」
厚焼き玉子の中には刻んだ濃い味のお肉が入っていて、時々塩辛いのがいい。
今度ミシュティに作ってもらおう。
私は料理嫌いなわけではなく、やれば出来るのだがミシュティの方が確実に上手い。
適材適所でいいのだ。
(あー、幸せ)
アマネからはすぐ行くと返事が来たがフレスベルグに許可を得るよう返事を出し、ミシュティにアマネが言ってきたらローランの屋敷まで連れてくるよう手紙を書いた。
ローランの屋敷は今のところ私、ミシュティ、レスターしか入れないようになっているが、アマネにも許可を出しておかねばなるまい。
魔法陣を書き換えるだけだが、本人がその場にいないと魔力紋の登録が面倒だ。
(保護者のフレスベルグにも許可を出さないと煩そうね……)
結局私は手紙を書き直し、ミシュティが明日フレスベルグとアマネをローランに連れてくることになった。
「部屋はフレスベルグとアマネで一部屋でいいか」
今は拠点として使わせてもいいが、本格的にここで活動するなら近くの村などに自分たちで拠点を作ってもらわないといけない。
私はアマネの保護者ではないし、そこはフレスベルグの管轄だ。
「フレスベルグから家賃取ろうかなっ」
(いや、冒険者活動するならアマネから徴収すべきか)
「…………」
子供相手に最初から高額な生活費を徴収するのは理不尽だから、冒険者ギルドで稼いだ二割を貯金箱に入れさせるか。
壊れなくて取り出せない貯金箱ならちょうど良さそう。
私はピンクの豚さんの貯金箱を取り出し、額にアマネと書き入れた。
もう一つの豚さんにはフレ、と書き入れた。
大きさ的に三文字くらいしか書けなかったからである。
フレスベルグからはしっかりいただく。
フレスベルグが拠点で泊まった時は一回につき銀貨一枚。
アマネは稼いだお金の二割。
(日本なら児童虐待になっちゃうのかしらね……)
でもこの世界──子供といえど五歳くらいから報酬の発生する労働をしているのが普通だから、いいのだ。
(子供が最初に受ける依頼ってどんなものなんだろうか。やっぱり薬草採集とかかな?)




