ローランの街並み
「……大丈夫かい」
道端でしゃがんでいた私に、お爺さんが声を掛けてきた。
左上に金と赤の腕章を付けている。
「大丈夫よ、石畳にも魔法陣が刻まれているのを感心して見てただけなの」
お爺さんは破顔して、杖をトンとついた。
「そうだろう? 見事だろう」
「ええ」
腕章には魔法陣保存協会と刺繍されていた。
さっきの話に出てきた機関ね。
「なに、具合が悪くないならエエ」
怒られなかった。
触らなくて本当に良かった。
「見回りですか?」
「ああ。わしはこの通りのチェックが担当でな。日に数回異常がないか見て回っている」
(なるほど、物理的にも頻繁にチェックしてるのね……でもこのお爺さん、魔力が強いからきっと魔術師ね)
「異常があったら?」
「異常があったら、該当部分を保全して、報告だな。修繕はまた違う部署なんだよ」
「へえ……」
仕事の邪魔をしてはいけないので、私は挨拶をして中心街へと向かった。
色味が少ないこの街の雰囲気は、静謐で心地よい。
なので余計に商店街が色鮮やかに、賑やかに見える。
(お弁当と惣菜の店が多い……)
アラインの家の近くと私の家の近くにはそれぞれ小さな食料品店があるが、商店街は出来合いの食品を売っているお店が多い。
(あ、たまごサンドみっけ)
大量の銅貨は未だ使い終わっていないので、ここで消費していこう。
私はたまごサンドとバゲットを買い、違う店では焼いた魚を買った。
「野菜。野菜も食べなきゃ」
立ち寄ったサラダ専門店でたまごサラダを買い、目についた色鮮やかな豆のサラダも購入。
ついでにカットフルーツがたっぷり入ったヨーグルトも。
お役所やギルドなどが集中している区域なので、買い物客は仕事中の人が多い。
(なるほど、仕事中の人がターゲットだからか)
普通の食料品店ももちろんあったが、惣菜類が多いのはお昼ご飯や帰宅時に買って帰る需要があるからか。
(すんすん……匂いがしない)
包装されてるとはいえ、これだけ料理が並んでいるのに匂いがない。
周囲を見渡すと、石畳と店の壁に消臭魔法陣が組み込まれているようだ。
そして石畳が起こしている微風が、地面から空へと空気を運んでいる。
個人的には隙間から雑草が生えてきているような、古びた街道も悪くないとは思うけれど。
この街の街道はきっちり管理され、いつも完璧な姿だ。
それを窮屈に思うか、管理が行き届いてると思うかは人それぞれ。
(私にはちょっと窮屈かなぁ……)
秩序だった環境が好きな人は住みやすそう。
エルフは特に気に入るんじゃないかな。
無秩序を嫌うエルフは多い……が、マイルール優先なので、やはり相容れないか。
(エルフは本当に協調性がないからなぁ……)
私は買い物を終え、のんびりと冒険者ギルドへ向かった。
辺境からこの街に栄転したチェシャに会うためだ。
副ギルド長になったチェシャならば、ある程度融通は利かせられるはず。
面会を申し込み、個室に通され三十分。
申し訳なさそうに部屋に入ってきたチェシャは、パッと顔を輝かせた。
「お久しぶりです!」
「お久しぶり」
(数ヶ月はお久しぶりなのかしら……)
「聞きましたよ、領主館が緑髪のエルフ所有になったって……絶対ジューンさんだと思ってました!」
「そうなの、ちょっとした伝手で」
「──では、しばらくここで活動を?」
「そのつもり。で、ちょっとお願いがあって」
山猫獣人のチェシャは、大きな耳の飾毛を揺らしながら首を傾げた。
「私の裁量で出来ることでしたら」
「知り合いの子供がギルドに興味があるみたいでね、変な人には任せたくないし……チェシャにお願いしたいと思って」
「あら。お幾つくらいの子供さんです?」
「十二歳くらい」
「人間ですか」
「いや、龍人」
「まあ、龍人とはまた珍しい……私、見たことないです」
「でしょうね、私も龍人と親しくなったのは初めてだったもの」
「お求めになっているのは登録手続きと、能力に応じた依頼の采配です?」
「そう」
「それでしたらお任せください。聞き分けのできる子でしたら問題ありませんよ」
「それは大丈夫。ダメな場合は何故ダメなのか説明すれば理解はする子だから」
チェシャは制服の胸ポケットから金色のペンを取り出し、自分の名刺の裏にメモ書きを始めた。
「ではこの名刺を受け付けに持ってきたら、私に来る案件にしておきます。ご存じのように、ギルドは担当制ではありませんが……龍人となれば特例が認められます」
「ふふ、エルフ同様危険種族だから?」
「身も蓋もない言い方をすればそうなりますね……」
「いつ来るかはちょっとわからないけど、男の子で黒髪黒目、小柄。名前はアマネ」
チェシャは自分のメモ帳に必要事項を書き込み、数回耳をピコピコさせてから頷いた。
「大丈夫です。いらっしゃるまでに龍人の特性を確認しておきます」
「……ふふっ、ありがとう。でも無償ではないわね?」
チェシャは目を細め、ニヤリと笑った。
「前回はツヨン草の依頼をこなしてくださって助かりました。今回も塩漬け案件をお願いしたいです」
「やっぱり……」




