ローラン不動産事情
「それは……確かにそう言う諺があるわね」
「ああ、百人のエルフと一人のエルフに大差無し」
「良いエルフは死んだエルフだけ」
「エルフの親切には裏がある」
「ろくな諺が無いのがエルフよねぇ」
アラインは新しい火酒の瓶を開け、胡散臭げに私を見た。
「で、この街になんで?」
「選んだのは偶然。仕事の報酬に屋敷をもらったから」
「ほう……相当難儀な仕事と見た。でなければローランの物件なんぞ出てこないぞ」
「え、そうなの? ローランってそんなに狭き門なわけ?」
私の質問に、アラインはグラスにバラバラと氷を入れながら小さく返事をした。
「まず、この街は千年以上新しい建物が建っていない。修繕も魔法陣保存協会の審議後、専門の業者が入っている」
「ええ」
「必然的に空き家なんぞ滅多に出ない。住んでなくても手放す人も居ない。ローランの方では賃貸で出すのも禁じられている」
「ああ、そういう……」
「それに貴女のもらったあの屋敷は、世界基準で見たら小さな屋敷だがローラン基準でみたら一番大きい建物だ」
「そうね」
「領主館だった」
「えっ」
「最後の領主は戦争締結とともに任を解かれ、議会運営に変わった。今はアルシアから来た議長が就任している」
「なるほど……」
「領主はローランの貴族で、屋敷は個人資産として子世代が引き継いだはずだが……」
「それを買った商人が私に権利を移譲したってことね」
「そうなるな。よく手放す気になったものだ」
(売主とは面識がないし、情報すら知らないけれど……他にも資産のあるアマンダが、ここをわざわざエルフに譲ったのは絶対何か裏があるわね)
「そうね。中々市場に出ない、しかも領主館だもの。何故売ったのか気になっちゃうわね」
あの屋敷は長く人が住んでいなかったので、埃が分厚く積もっていた。
受け継いだ子世代が、自分では住まず空き家にしていたのは間違いない。
和平は確か三十年くらい前だから、まだ『歴史』になる時期ではない。
当時の関係者が生きているうちは。
「まあ……不動産は持っているだけで金はかかる。ローランの不動産税はかなり高いぞ。元貴族と言っても個人資産はピンキリだしな」
「ああ、税金。そこは考えてなかった……」
「魔法陣保存協会と冒険者ギルドの間に議会が持っている役場があるから、そこで聞くといい」
「わかった」
「まあ、金には困ってないだろう? そう言えばエルフで金欠の者は見たことがないな」
「あら? ……確かに見たことないわね」
アラインは長い脚を組み替え、グラスに視線を落とした。
「長命種はそれなりに資産を持ってるからな」
私は万年金欠のフレスベルグを思い出したが、長命種がお金を持っているのには同意。
そもそも私がフレスベルグの年齢だった頃は、まだ師匠というか姉のようなエルフと旅をして回っていたからお金なんてそんなに持ってなかったし。
「正確には、ある程度生きた長命種は……ね」
「ああ、若い頃は無かったな、確かに」
(ここが旧王朝の首都であったと考えると、ローランの王族の祖先であるアラインが住んでいるのは不思議じゃないのね)
まさかアラインがいるとは思っていなかったが、アラインはアルシア王国よりローラン王国で生きていた時間のほうがはるかに長いのだろう。
自由の身になって、古巣のローランに帰ってくる方が自然といえば自然だ。
「玄関のベルが錆びてたわよ」
「そうか? 訪ねてくるものなんて居ないから気にもしてなかった」
「直しなさいよ」
「そうだな」
私は立ち上がり、もてなしのお礼を述べてアラインの家から立ち去った。
この街は真円形で設計されており、東側には大きな山がある。
領主館はその山を背に建てられているが、アラインの家は中心地の施設や商店街を超えた西側の住宅街にある。
(この大陸はどの街も中心点に噴水や井戸があるけれど……そういう文化なのかしらね)
張り巡らされた石畳は、通りによって色が変えられている。
歪みも浮きもなく、雑草も生えていない。
「あ、やっぱり……」
端の方でしゃがんで石畳を調べてみると、一枚一枚しっかり裏側に魔法陣が刻まれている。
組み合わせ型の魔法陣もあるので、入れ替え不可のものだ。
もちろんひっくり返して見たわけではない。
目に魔力を纏わせ、注視しただけ。
(石畳からしてこうだもの、それは保存協会が必要ね……)




