のどかな島
ミシュティは杖を振り、雷々鳥の首を跳ね飛ばした。
素早く駆け寄り、片手にぶら下げて意気揚々と戻ってくる。
「すぐ終わりますから」
そう言うと、雷々鳥の血抜きを始める。
私がやる時は水魔法の応用で血液を吸い出してしまうのだけれど、ミシュティは重力魔法派のようだ。
アマネは黙って見ていたが、しばらくして口を開いた。
「魔法で?」
「そうよ」
「……フレ兄は振り回してるよ?」
「……レスターも振り回すのよ。遠心力で飛ばしてるんだろうけど、あちこち汚れるから魔法のほうが便利よ」
「振り回したほうが早そう」
「…………君もそっち側か」
「下ごしらえからテーブルセッティングまでのお手伝い、銅貨五枚。アマネさん、やりますか?」
「やるやるー」
ミシュティはポーチから作業台を取り出し、腕まくりをした。
作業台に付属した魔導コンロのうえにお湯を沸かし、温度計をアマネに持たせるとミシュティは作業手順を話し始めた。
「鳥はこのまま七十度くらいのお湯につけます。時間は三十秒です」
「それくらいなら僕、手を入れても平気」
「そうですね、では温度が丁度良くなったらお願いします」
ミシュティは魔法で下処理も出来るはずだが、今回は魔法を使わず手作業で料理をするようだ。
(正しいやり方を知っておけば、万が一魔法が使えなくなっても食事には困らないからかな……アルバイトという名の料理教室ね)
「何故お湯につけるかと言うと──毛穴が緩んで羽根を抜きやすくなるからです」
「そうなんだ」
「雷々鳥は美味しいですよ、何味にしましょうか。おすすめは塩コショウですがショーユがありますから、アマネさんの好きなテリヤキも出来ます」
「断然照り焼き! ねえミシュティ、お米は?」
「お米は炊いてあるものがたくさんありますが……炊きますか?」
「やった! 炊きたい!」
私はすることもないので周囲を散策することにした。
祭煉葛は探すまでもなく、そこら中の樹木にわさわさと絡みついている。
太い蔓をちょっと切って採取するだけだから、慌てる必要はない。
(土鍋が出てたから、土鍋ご飯よね。おこげ食べたいな……)
空は高く、薄い雲をたなびかせている。
何の変哲もない普通の島だから、特に珍しい植物は無さそう。
物語の主人公ならいきなり激レア素材に行き当たるんだろうけれど……そんなラッキーなことは滅多にないかな。
「あ、ウサギ」
こういう小さな島に魔物がいないのは、珍しいことではない。
魔物が生命維持できるほどの食料が確保できないから。
ひよこ島に魔物が居なかったのは昔に私が一掃したからだけれど、その後ペットとして魔物を飼っていたら世話ないわ。
(ひよこ島の大きさなら小さな群れくらいなら生きていけそう。この島は小さすぎて魔物は住めない……平和でいいわね)
この島は群島の中でもかなり暖かく、時折羽ばたいていく鳥たちも極彩色が多い。
植物も鮮やかな色が多いから、鳥たちの派手な装いは敵に視認されないよう溶け込むためだろう。
逆にウサギなどの地面にいる動物は土色だ。
雪原の動物は白っぽいし、砂漠の動物は砂色に近かったりするから……生き残り戦略として周囲に紛れる色合いになっていると考えるのが、正しい気がする。
(たまにアルビノとか色違いが生まれるけれど、目立つから生きていけない。だから希少価値があるんだけれど……)
色素が違うだけなので、素材として見るなら成分は変わらない。
けれど、特別な成分や効果があると信じてる人も結構いると思う。
そんなことを考えながら、柔らかな短い草の上を歩いていると香ばしい香りがしてきた。
「おこげの匂い……!」
私はちょっとだけ急ぎ足で、来た道を引き返した
戻った先にはテーブルと椅子が出されている。
アイロンがきっちり当てられたテーブルクロス、可愛らしい野花が生けられた小さな花瓶。
雑然と挿されているが、野趣があっていいんじゃないだろうか。
きっと摘んだのはアマネだ。
ミシュティなら高さや組み合わせを考えて生けるだろうから。
でも、のどかな島にはピッタリの可愛らしい野花たちだ。
「おこげのとこがいい」
「え、僕もなんだけど」
「……半分こよ」
「うふふ、ちゃんとおこげ多めにしてありますよ」
私はたまごサンドが一番好きだけれど、おこげにちょっと塩を振ったのも大好きだ。
「いただきまーす」




