祭煉葛を採取しに行く
「あ、その前に材料を採取していきましょう」
「何するの」
私は『めっちゃ滑る上に中々落ちないツルツル粘液』のページを指差した。
材料は祭煉葛の粘液、龍の卵の殻少々。
「これが簡単でいいと思う」
「龍の卵の殻はポチのとこに散らばってたのを片付けたから、僕いっぱい持ってる!」
アマネはドヤ顔でふんぞり返った。
「んじゃあとは祭煉葛の粘液か……そこらにありそうで無いのよね」
「植物図鑑で生息地を見てみるね」
アマネは地面に足を投げ出して座ったまま、膝の上に分厚い図鑑を広げた。
「祭煉葛!」
アマネの声に反応して、図鑑の該当ページがゆらゆらと光り出す。
「あったあった、えっと……」
魔法のかかった図鑑も正しく使用できてるし、魔法制御に関してはフレスベルグより上手かも。
フレスベルグは苦手分野も力押しでどうにかしてしまう天性の頑丈さがあるから、比べても意味なさそうだけれど。
失敗して反撃されても、致死に至る状況まで追い込まれる事は滅多に無い。
彼が本当に死にそうになったのは、砂漠の戦争で私が首を刎ねようとした時だけなんじゃないかしら。
「世界各地に生息。特に多いのはメア大陸のジャングル……あそこかぁ」
メア大陸のジャングルはアマネがこの世界に来てすぐの頃、保護された場所だ。
正確にはジャングルの外れにある廃棄された研究施設で、だが。
私はチラリとアマネの様子を窺った。
転生早々、見知らぬ世界の魔物たちに追い回され死にかけたのだ──ずいぶん怖い思いをしてるはず。
(まだ連れて行くタイミングじゃない)
「メア大陸のジャングルは遠いから、魔界の南の島にしましょ。私、そこで見たことあるから」
「いつ?」
「……五百年くらい前」
「えーっ、まだあるかなぁ」
「あるでしょ、使い道のない植物だし」
ミシュティがふわふわした毛に風を受け、少し毛皮を膨らませながら首を傾げた。
「それだけヌルっとしてれば、何かの補助素材になりそうですけれど……」
「なるにはなると思うけれど、今は使う人もいないんじゃないかな。祭煉葛にはちょっとだけ魔力反発があるから」
「今は……です?」
「今時は加工した無菌スライムの方が安価で安定してるのよ」
「ああ、加工スライムの出来る前に使われていたのですね」
「そうそう。昔はいろんな種類の葛を調合してたわね。あ、でもね昔風のレシピにこだわる人も結構いるから、たまに冒険者ギルドで依頼が貼られてたりする」
「冒険者ギルド!」
アマネが食い気味に大声を出した。
「なに、冒険者ギルドにも興味があるの?」
「……男の子は好きだと思います。うちの弟も活動なんてしてませんが、冒険者ギルドに登録してますもの」
(なるほど、男児のロマン……うーん、王都の冒険者ギルドは規模が大きすぎるから子供向きではないし)
冒険者ギルドに年齢制限はないので、十二歳でも大丈夫だ。
だが、王都の冒険者ギルドは非常に規模が大きく初心者の子供には向いていない。
「フレ兄は最近ランク9になったんだって!」
「へえ」
冒険者ギルドは十段階評価である。
初心者は文字通り一ランクからで、最高評価になると十ランクというわけだ。
実際は最高ランクも細かく分かれているらしいが、それは冒険者には伝えられない部分でギルド内部の情報として共有されているようだ。
「ジューンは?」
「当然最高ランクよ」
フレスベルグは二百年くらいサボってたから、最近ようやくランクが上がったようだが……。
真面目にやってれば、すでに最高ランクだったんじゃないかな。
「最高ランクの目安ってどれくらいなんでしょう」
ミシュティがアマネのズボンの草を払いながら、呟いた。
「実力で言うとその時代のギルドが指定した危険指定魔物を単騎討伐出来るかどうか、が目安みたい。あとは貢献度とかも加味されるって聞いたけど、実際の基準は秘匿されてる」
「僕も登録したい」
「そう来ると思ったわ……フレスベルグに許可をとってからよ」
「うん!」
私たちは魔界群島の南端、小さな無人島に転移した。
砂浜は無くて、周囲は岩。
小鳥が無邪気に歌っている、緑豊かな美しい島だ。
「わあ……綺麗な島ですね。あちこちで小鳥が鳴い……あっ、雷々鳥ですわっ!」
ミシュティがキラキラした瞳で小さな杖を取り出した。
(あ、ミシュティ……お昼ご飯を見つけたのね)




