お小遣いを使い果たした龍人の子
アマネは鉛筆を取り出し、ミニドラゴンに持たせた。
「いつもは上手に持てなかったんだ」
ミニドラゴンはしっかり鉛筆を抱え、口に入れた。
口の中に入っている鉛筆削りがガーッと作動音を立て、鉛筆を尖らせた。
「おおー、削れてる」
ちなみに削りカスは、ある程度溜まったらお尻から出てくるらしい。
「そのピンセットは銀貨八枚だが……」
「う、うん」
「お前は将来のお得意様だな、間違いなく」
「うん!」
「先行投資だ、持っていけ」
「いいの? ありがとう」
「そこのエルフにたっぷり買い物してもらうから、気にすんな」
そう言って店主は私に紙で包まれた小さなホムンクルス回路を寄越した。
「これ、オーダー品な。金貨七枚」
「……高い」
「オーダーなんだから文句言うな」
「ふふっ言ってみただけ。あと、基材をいくつか欲しい」
私は欲しいものリストを店主に渡した。
その間、外観からは想像がつかない広い店内を見て回る。
アマネはここでも自分のお財布と相談しつつ、欲しいものを籠に入れていく。
それぞれ代金を支払い、外に出ると風が強くなっていて波が高くなっていた。
(お小遣いなくなっちゃったんじゃないかな? ひよこ島でアルバイトさせるか……)
ビビちゃんの巣を少し広げて、不壊魔法をかけさせよう。
龍人の子は力が強く、うっかりものを壊すことが多いから覚えて損はないはずだ。
「あら、ここそろそろ沈むかも」
「えっ、お店は?」
アマネは心配そうに小屋を振り返った。
「店は魔法で守られてるから浸水しない。店主はウンディーネだから全く問題がない。ただ、私たちみたいな種族は入れなくなっちゃう」
そう話している間に、海水が足首まで上がってきた。
ひよこ島に転移し、屋敷に入るとミシュティが私たちの足元を見つめ、スリッパを出してきた。
「お二人とも革靴……すぐお手入れしないと」
ミシュティが濡れた靴を持って立ち去り、私たちはもらったタオルで足を拭いてフカフカのスリッパをはいた。
待ち構えていたかのように、ディーとクリムゾンヘルファイアがアマネのスリッパに襲いかかった。
アマネはケラケラ笑いながら足を振り、犬たちと遊び始める。
古代ホムンクルスの回路も入手したし、しばらく買い物に行く用事はない。
私は包み紙の中の回路を再度確認し、なくさないよう時空庫にしまった。
オーダーしたホムンクルス回路は一般的な若い女の子回路に、『いかにもピンク髪っぽいヒロイン』の行動様式を足したものだ。
無作法で、善悪の境界が曖昧。
落ち着きがなく女性には少し攻撃的。
男性には愛らしく、甘え上手で涙も良く流す。
言っちゃいけないことをポロっと言ってしまうような浅慮さも指定してある。
あとは身体を構築するだけ……順調に一つずつ片付いていって、安心するわ。
「おやつを食べたら、帰る前にアルバイトしていかない?」
犬たちに両足のスリッパを奪い取られた裸足のアマネが振り返った。
「するする、したい。僕もうお小遣い無くなっちゃったし」
「いい買いっぷりだったものね。じゃあ今からやってほしいお仕事と、料金をリストにするわね」
「うん!」
靴のお手入れを終えたミシュティが、おやつを何にするか聞きに来た。
「そうねえ、私は果物」
「僕チョコレートケーキとアイス」
果物をつまみながら、私は紙にアルバイトの内容を箇条書きにしていった。
・ビビちゃんの巣を広げ、不壊魔法を覚えて完成させる──銀貨一枚。
・温室の植物、果樹園の水やり──一回につき銅貨五枚。
・ポチをデッキブラシで磨く──銀貨一枚。
・ユーニウスとペルルの水遊び、拭き上げ──一回につき銅貨五枚。
全部自分でやったほうが早そうだが、これくらいならアマネにやらせてもいいだろう。
もしかしたら、ミシュティも何か頼めそうなお仕事を思いつくかもしれない。
「ミシュティ、なにかある?」
「そうですね……近々買い出しに行くので、荷物でも持っていただきます」
・ミシュティの買い物の荷物持ち──銅貨一枚。
子供のお手伝いにしては高額かもしれないが、自分で稼いで考えて使う金銭感覚を養うにはちょうどいい。
何しろ保護者のフレスベルグは、あったらあっただけ使ってしまうダメ男なのだ。
フレスベルグはアマネを養育し始めて、ようやく貯金の大切さを身をもって味わっているみたいなので今後に期待かな。




