普通じゃない方のお店
店内は乾いた草の匂いで満たされており、棚には整然と小瓶が並んでいる。
高額商品や保存が特殊な物は店主に言わないと出てこないが、一般的なものであればこの店で充分間に合う。
「えっと……コカトリスの肝のエキス、幼体ヒドラの尾の鱗、あと紫幽キノコの石突」
アマネは初回にステファニーの店で買った『はじめてのしりょうしょうかん』を引っ張り出した。
中古本なので媒体がついていなかったものだ。
本の後ろにある媒体リストを見ながら、買い物を進めていく。
「全部ありそうね。瓶代がかかるからこの空瓶あげる」
「ありがとう」
「はい、合わせて白銅貨二枚と銅貨二枚ね」
店主は必要な分だけ秤で計量し、エキス類は瓶に入れてくれた。
こういう量り売りというのは、子供にとってはありがたいシステムだ。
アマネはお財布を取り出し、きっちり数えて支払いを済ませた。
「次は普通じゃない方!」
「そうね。次に行く店はホムンクルスのマニアックな素材があるお店よ。あなたにあげたミニドラゴンホムンクルスキットを買ったところ」
「!」
アマネの顔が歓喜に満ち溢れる。
フレスベルグの趣味のホムンクルス作りを見て、とても興味があるからだ。
ネコ美ちゃんを解体しかかったくらい、強い好奇心を示している。
プレゼントしたミニドラゴンキットも試行錯誤しながら完成させているので、手先も器用。
きっと気になるものを見つけられるだろう。
「そこの店主はウンディーネなんだけど、フレスベルグの話は絶対しちゃダメよ」
「なんで?」
「フレスベルグは出禁になってるから」
「なんで?」
「さあ? 理由は知らないけど、フレスベルグの身内なのは言わないほうがいいから内緒よ」
「わかった」
私はアマネの手を取り、群島のはずれの小島に転移した。
「わあ、小さい島だ。小屋しかないね」
アマネは周囲を見渡し、少し驚いたように呟いた。
小島というより海に顔を出す岩といった方が正しいかもしれない。
周囲は激しい潮流に囲まれ、小屋が一つ建っているだけでスペースはギリギリだ。
「店主のウンディーネは男性なんだけど、女性という前提で話をすると転生者だとバレてフレスベルグとの関係性を疑われるかもしれない」
「ウンディーネ……男性」
「ウンディーネは種族名で、男女どちらもいるのが常識だから、覚えておくといいわ」
「わかったー」
「転生者とバレないようにするには、雑談が一番危険よ。思い込みでうっかり話すと、相手に違和感を与えるから」
「例えば?」
「ウンディーネや人魚が女だけ、とかエルフが優しいとか、吸血鬼が血を吸うとか。あれは地球の物語でのイメージでしょう?この世界はそうじゃない」
「知らない人とする話で、この世界のデフォルトを知らない時は黙ってるか、聞けばいいの?」
「まさにその通りよ。黙ってるか、適当に相槌打っておけばいいの。分からないことは親しい大人に聞く、これが一番間違いない」
「フレ兄、僕のことを近所の人に事故にあって記憶喪失って紹介してた」
「いいわね。その設定は使えるから、探られたらそう言えばいい」
「ふうん」
アマネの興味は半分壊れた扉にあり、かなり生返事だったがフレスベルグよりは慎重派だから、多分大丈夫だろう。
「おう、来たのか」
店主はウンディーネ、その身体はミルクを薄めたような白っぽい半透明だ。
見ただけでは性別や年齢は分からない。
この店主は声が低いので、すぐに男性だと察せるけれど。
「こんにちは、この子は例のミニドラゴンキットをあげた子よ」
「おおー、そうか。どうだ坊主、うまく作れたか」
アマネはドヤ顔でミニドラゴンを時空庫から出した。
(持ち歩いているのか……お気に入りになったのね。あげた甲斐があるわ)
「おや、金色……金蛇の実の薄皮を使ったのか?」
「うん、ジューンの島に生えてるんだ」
「ほうほう、どれおっちゃんに見せてみな」
店主はカウンターをよちよちと歩き始めたミニドラゴンホムンクルスをつまみ上げ、じっくりと検分した。
「初めてか?」
「うん」
「よく出来てる……回路の埋め込み方、擬似魔脈配線も無駄がない。それに素体の染まりもむらがなく均一だ」
店主に褒められて、アマネは耳を赤くしながら頷いた。
「あとは手足の細かいところをスムーズに動かすようにすれば完璧だな」
「あの、この脇から前足に繋ぐ部分が……」
「ああここか。ここはピンセットを使って埋め込むのがいいぞ」
そう言って店主は先から魔力を滲み出させるピンセットをアマネの目の前に置いた。
「これは魔力を通しながら使う。配線は微細な魔力で押し込むと、細い部分でもきちんと偏らず収まる。やってみろ」
アマネはピンセットを手に取り、ミニドラゴンの右手を持ってそっと配線を引っ張り出した。
「少しだけの魔力だぞ」
店主の短い指導に真剣に頷く。
少し手間取ったが、小さく細いミニドラゴンの右手に再び擬似魔脈配線が埋め込まれた。
「あ、ホントだ。跳ね返ってこない」
「良い場所に入ったら、魔力を切る」
一度失敗したが、二度目は成功した。
続いて左手も指導されながら直していく。
そして両足も。
「…………出来た」
ちょっと直しただけだと言うのに、ミニドラゴンはちょこちょこと滑らかに歩き始めた。
「わあ……」




