街歩き、触媒のお店へ
「ふんふん、ふーん♪」
革細工は割と好きなので、楽しい。
選んだ革は黒い龍の腹側の皮。
すでに革加工したものの端材なので、そのまま使っていく。
黒龍は呪術に似た攻撃魔法を放ってくるめんどくさい龍だけれど、自身は呪術を受け付けない。
まさにうってつけの素材ではないだろうか。
華奢なアマネのサイズなら、端材でエプロンも作れそうだ。
目を上げてアマネを見ると、すでに服は破れているからエプロンは必須だろう。
ステファニーは裸だけども。
魔法陣を刻み終わった青石は、包むように革をセットして縫っていく。
一面だけは綺麗な青が見えるように縁取っていくと、いい感じに仕上がった。
これをバックルとして成型していく。
「腹皮は柔らかいから楽でいいわね」
背中側だとカットするにも準備が必要だから、加工しやすい腹皮端材があって良かった。
(んー、大人になっても使えるようにしたら、今だと余り過ぎちゃうか。……バックルだけ交換すればいいから、今のサイズでいいかな……)
装備すればサイズが変わる魔道具っぽい装備品にするには、皮から革加工する前に処理が必要。
鉄なら精錬前に。
ぱぱっと作れるものではないので、今回は普通のベルトとエプロンだ。
本に頭を噛まれたまま、アマネが私を覗き込んだ。
「何作ってるの?」
私は頭に食らいついている本をそっと取り除き、少しだけ魔力を通した。
本は震え上がり、おとなしくなった。
「ベルトとエプロン。初バイトのお祝いにあげるから待ってて」
「うん」
「大丈夫、フレスベルグには私からちゃんとやれてたって言っておくから」
アマネは丁寧に本を縛り、要処理と書かれた札のある台に置いた。
許可を得るには自分でお願いをするしかないが、応援くらいはして上げよう。
ステファニーは終始機嫌が良く、ベルトとエプロンの代金を自分が払おうと言い始めた。
「だって、これは店で使うんだろ? なら俺が買ってやる!」
「じゃあ、なんか珍しい本と交換ね」
「いいぞ! ちょっと待て……このあたりに錬金の……三十二代目魔王、マーリンのサイン入り初版があったはず」
今の魔王はただの組合だが、魔界の王政が廃止するまでは国主としての魔王が存在していた。
三十二代というと相当昔で、私が転生する前の魔王だ。
カルミラが魔王のままだったら、四十九代目だったはず。
「へえ、古の錬金術には興味ある」
「内容はちょっと酷いがな」
「ふふっ帰ったらゆっくり読んでみるわ」
数時間後、ベルトとエプロンが出来上がりステファニーから厳かにアマネへと受け渡しが行われた。
(うん、サイズはピッタリ。エプロンは若干大きいけど、まあ許容範囲ね)
ステファニーはアマネの手のひらに銀貨を一枚のせ、ふんぞり返った。
「0のつく日が定休日! その日がバイトの倉庫整理だからな」
「わかった!」
普通じゃない方のルークシリーズはアマネが自分で紙袋に入れ、時空庫にしまった。
「さて、まだ夕方じゃないけれどこのあたりで行っておきたい店はある?」
「触媒のお店にいきたい」
「普通のと、普通じゃないのどっちがいい?」
アマネはケラケラと笑い、どっちも行きたいと希望を出した。
(……こういう場合、普通の方を先に見るべきよね?)
魔界の首都クーンは、住宅街はほとんど無くてお店が占めている。
そもそも魔界は群島なので、住居は周囲にある島に定めてるものが多い。
カルミラが住んでいる王城、その使用人以外は。
「あっちの奥に妖精区域として住宅街があるけど、珍しいお店はないから見て回るならやっぱり城下町ね。あ、そこはミシュティのお父さんのお店よ」
「レストラン!」
「美味しいわよー? ミシュティの食事マナー試験に合格したら、連れてきてあげる」
「ミシュティ……厳しい」
「ふふっ、でしょうね」
私たちは魔界にしては珍しく人間が店主をやっている触媒店へと足を踏み入れた。
「あ、人間……」
アマネが小さな声で囁いてきた。
「ええ。魔界にも少ないけれど、人間は居るのよ」
その会話に店主がにっこりと微笑んだ。
「いらっしゃい。私は夫がスケルトンだから、魔界に移住してきたのよ。こっちだと迫害されないから」
見た目のせいで、スケルトンやリッチは人間社会に溶け込めないわけじゃない。
実際長く人間社会に住んでいる者もいる。
ただ、婚姻となると世間の目はちょっと厳しくなる。
子供が生まれるからだ。
子供は無垢だが、純粋であるがゆえに残酷だ。
人間の子供たちと一緒に不死族の子が教育を受けられる場所がない。
そもそも不死族の子供は、魔脈が大人になって完成するまでは昼間に活動するのがむずかしいのだ。
魔界なら、奇異の目で見られることがないのでそういう夫婦は魔界に移住することが多い。
(禁術で蘇った死霊と、普通に生まれてくる死霊はちょっと違う生命体なんだけれど……見分けがつきにくいから、仕方ないのよね)
そんな話をアマネにすると、不思議そうに首を傾げる。
「カルミラのお城は?」
「カルミラのお城は別名不夜城と呼ばれていて、不死族が暮らしやすい空間になってるの」
「あ、だからみんな起きてるのかー」
城には使用人の子供たちが通う学校があり、アマネも最近そこで学んでいる。
使用人には不死族じゃないものも多く、授業は昼に行われているのでアマネの疑問はもっともだ。
「そう、あそこは特別なのよ」




