普通か、普通じゃないか
「そうだ、推理物なら面白い本があったな……」
ステファニーは新緑色の小さな身体で図鑑を踏みつけながら、顎に手を当てた。
「おい、龍人の子。こいつを縛り上げろ! うん、そこから二重に巻いて、くぐらせて交差させ……おお、うまいじゃないか」
アマネは器用に図鑑を縛り上げた。
ステファニーは懐から魔法陣の描かれた札を紐の間に差し込んだ。
「わあ、静かになった」
「封印札は外すなよ」
「わかった!」
図鑑を封印し終わり、アマネにそれを棚に並べさせたステファニーは機嫌よく頷いた。
「お前、アマネ。見どころがある」
(……すでにバイト中よね? これは)
「ステファニー、もう働かせるならバイト代出しなさいよ」
「もちろんだぞ! さあ来い、あっちの部屋に買い取った本がいっぱい溜まってる!」
何も言われなかったので、私も彼らと一緒に隣の部屋へ。
ステファニーは台に乗り、手のひらを扉にかざした。
(なるほど、グレムリンの扉守魔法か……)
扉に描かれた小さな魔法陣は、入れる人を選別するものだ。
それだけなら魔術に長けていれば誰にでも描くことができるが、グレムリンの固有魔法である扉守魔法の場合、該当者以外が扉を開けようとすると特大の呪いが飛んでくる。
呪いの種類は掛けたグレムリンによって違うので、油断してはいけない。
固有魔法は普通の魔法の理を、超えてくる場合があるからだ。
「この扉守魔法のペナルティは?」
「水分を強制蒸発させて即死! 死ななかった場合は拘束だな」
「本屋にしては物騒ねぇ……」
「アマネには許可をやろう。ジューン今だけ一緒に入っていい」
「……ありがとう?」
扉の向こうにあった部屋は、部屋というより倉庫。
店内よりはるかに広い地下室だった。
「ちょっとちょっと。週に一回のバイトじゃ間に合わないんじゃないの」
乱雑に積み上げられた本は大量で、一年かけても選別が終わらなさそうだった。
「前のバイトが食われてから千年くらい経ってるから、増えてる! でも置き場も多くないから週に一回でいい。今は」
「ああ、そう……」
どうにかスペースを確保し、自分が出した椅子に腰掛けてアマネを見守ることにしよう。
「これなんて書いてある?」
「ん? これは古語だな! 効率的な首の刎ね方百選」
「……百ってこの字?」
「いや、ここ。不死族の古語の場合、数字は先頭にくる……単語はここで区切るから、百選、首の刎ね方、効率的。この記法がはいると効率的な、になる」
「へえ」
(勉強になってる……!)
「そいつは普通の本だから、その籠に入れろ。おかしいと思った本はそっちの台の上」
しばらくして、悲鳴が上がりアマネが本に噛まれた。
噛まれたまま机に本をぶつけると、本は離れたがアマネはその本をギュッと抑えつけた。
噛まれた手は少し赤くなっている。
それを見て、ステファニーはブルブルと震え始めた。
大きな瞳には涙が盛り上がっている。
「おお……何という素晴らしい才能」
どうやら感激している様子。
「お前、この本屋継ぐか!次のステファニーになれるぞ」
「え、僕ステファニーって名前になるのはちょっと……」
「きひひ、冗談だ。この店はグレムリン以外の店主は認められてないからな!」
この世界の文明は数万年前から続いており、時を経て魔本に変じた書物も多い。
もちろん、最初から魔法がかかっている本もあるし、呪術トラップ付きの書物もある。
まあまあ危険な仕事ではある。
(グレムリンは呪い耐性が非常に高い種族だけれど、龍人はそこまでじゃなかったはず)
ほかの種族より基礎能力は高いので、ある程度の耐性はあると思うんだけれど。
私は時空庫から宝石をいくつか出した。
呪術防御の魔法陣を刻むのに良さそうな石は──トルコブルーの鮮やかなものが良さそう。
宝石のように澄んではいないが、頑丈でまず割れないからアマネにはちょうど良さそうだ。
ステファニーとアマネがギャーギャー騒ぎながら仕事をする間、私は龍の革の端材を使ってベルトを作成することにした。
小さなテーブルを広げるスペースがあって良かった。
(呪い耐性アップ、即死魔法無効、回復能力アップくらいなら描けるかな……)




