ステファニーの本屋再び
「で、今回は何の本を?」
私は張り切ってひよこ島に転移してきたアマネに聞いた。
「うん。僕、探偵の話が好きだから、そういうので読む練習がしたい。フレ兄のは女の子ばっかり出てくる本ばっかりでつまんない」
「そうねえ、勉強するなら好きなジャンルの本を読むのがいい。好みは人それぞれだから、あなたが推理小説好きならそれがいいんじゃない」
「うん」
「私も好きなのよ。どんでん返しも好きだけど、叙述トリックとか」
「叙述トリックってどんなの?」
私は説明しようとして、言葉に詰まった。
アマネはこちらに転生してきて半年あまりで、うまい喩えが見つからない。
「……あ、そうだ。音楽の授業でクラリネットを壊して困ってる歌があったでしょう、題名は忘れちゃったけど」
アマネはにっこりして頷いた。
「小学校で歌った!」
「あれが叙述トリックに近い」
「クラリネットが?」
私は立ち止まってアマネを見た。
「歌詞は覚えてる?」
「うん」
「パパのクラリネットを壊して困ってるんだったわね」
「そうだよ」
「さあ、歌詞を書いてみて」
「…………」
「あれ、音が全部出てないな」
「その通り。音が出なくて困ってる歌と見せかけて、答えは全部書いてある──この子はクラリネットを壊したんじゃなくて、ちゃんと吹けてないだけ」
「ほんとだ、あれぇ……ほんとだぁ」
「パッと見たらクラリネットが壊れた歌。でもなんで音が出ないのかは二番の歌詞でヒントが出てくる」
「うん」
「でも、最初に壊れたクラリネットの歌って思い込んで覚えた子は、ヒントに気が付かない場合もある」
「あー、うん」
「叙述トリックっていうのは、それの小説版だと思えばいいと思うわ。読者の思い込みを利用して、作者の思い通りに解釈させていくの」
「へえ〜、面白そう」
「そうして最後に種明かし、面白い本だとまた最初から読み直したくなる」
「そういうの読みたい」
「十五歳くらいが対象の面白い本があるわ。流浪の冒険者ルークってシリーズ。確か三十巻くらいあったはず」
「どんなの?」
「世界中の珍しいものを見て歩く話。冒険あり、推理ありの人気シリーズだから勉強と地理を覚えるのにすごくいいと思うわ」
話している間に古書店に到着した。
「入る時は細く扉を開けて」
「本が逃げるから?」
「そう。あと襲ってくる時もあるし」
私達はそっと店内に入った。
グレムリンのステファニーは、二冊の図鑑っぽい本と格闘中だった。
「ああ、いいところに来た!エルフと龍人の子!赤い方の本を叩き落とせ!」
アマネはチラリと私を見て、私が頷くと赤い図鑑を捕まえに突進していった。
二人はしばらくバッタンバッタンと大立ち回りをしていたが、ようやく図鑑たちを縛り上げることに成功した。
「……龍人の子、お前中々やるなぁ」
ステファニーは手を叩いて喜んだ。
アマネは褒められて少し照れている。
「お前、週に一回バイトしに来る? 前の子が食われたから俺は困ってる!」
「バイト……フレ兄がいいって言ったらやりたい」
「うむ! 龍人の子なら噛まれても死なない! 俺は助かる!」
私は一応口を挟むことにした。
「ねえ、前のバイトが食われたって聞こえたけど?」
「そうだぞ、丸呑みだった! まあ、ピクシーだったからな」
「ふーん……小さい妖精だったからか。あ、ルークシリーズ揃ってたりする?」
ステファニーはふんぞり返った。
その隙に青い図鑑がジリジリと這い始めたが、ステファニーは見逃さずギュッと踏みつけた。
「もちろんある。普通のと普通じゃないの、どっちがいい?」
「どう違うの」
「人間社会版は普通の本。魔界版は場面に合わせた魔法が起きる。雪のシーンなら雪が降る」
「……溶岩とか雷のシーンは?」
「ちょっと降る」
アマネは考えるまでもなく、魔界版を選んだ。
読む場所を考えないと、フレスベルグの家がとんでもないことになりそうだけど。
ちなみにステファニーが求めるバイトの内容は、週に一回仕入れた本の梱包を解いて精査する仕事だ。
もちろん、内容ではない。
普通か、そうじゃないかの選別だ。
私は保護者ではないので決めるのはフレスベルグだけれど、週に一回数時間のバイトなら社会勉強にもなるし、いいんじゃないかな。
月に四回バイトして、銀貨四枚。
危険手当込みだそうだが、欲しい本も稀少本でなければ仕入れ値で買える特典付きだ。
(初めてのバイトにしたら、中々高時給なんじゃないかしらね)
ものすごく人手が欲しいのか、ステファニーはルークシリーズ魔界版セットを仕入れ値で譲ってくれた。
どうやら彼の心のなかでは、すでに採用済みのようだ。




