王都のお祭り
「こんな美人とデート出来て、俺感激」
「デートじゃないわよ」
王都は朝からお祭りムードだ。
噴水周りにはいつもよりたくさんの屋台、郊外にはサーカス団も併せて来ているということで、とても賑わっている。
そのせいか小柄なハーフリングたちが往来を陽気に行き交っている。
フランツとは約束していたわけではなく、噴水前の文房具店から私を見つけて挨拶をしに来た流れでなんとなく一緒にウロウロしているだけなのだが。
「よーく考えたら、ジューンちゃんは一回うちの店に来てるよね、見覚えあると思ったんだよ」
「そう?」
「メモ帳見に来てただろ、買わなかったけど」
「……そうかも?」
どこかの文房具店でメモ帳を探してた記憶はある。
今使っているメモ帳は何の変哲もない、そこらじゅうで買えるものだけれど。
「凄い美女が来たら、俺に限って忘れるわけはないから!」
「エルフだから綺麗なのは当たり前なのよ……」
「そんなジューンちゃんには、これを」
フランツが出してきたのは、青く染色された革表紙のメモ帳。
とても素敵だ。
「いいの? すごく素敵ね」
「いいのいいの。これさ、アマ……じゃない、フレッド商会に卸したメモ帳の見本なんだけど可愛いだろ?」
確かに見事な細工で、手触りも良い逸品だ。
「嬉しい、ありがとう」
「製品は王家に卸してて、品質は保証するけど……あっちのは結局染色されてないから、これはこの世で一つだけだよ」
「そうなの? おっと」
フランツは跳ね回るハーフリングにぶつからないよう、身をよじった。
ハーフリングは普段あまり見かけない。
彼らは定住せず、生涯を旅して過ごす種族だからだ。
おチビさんだが身体能力が高いので、大道芸人だったりサーカス団が主な職業だ。
「ハーフリングってさぁ、俺らの半分くらいの大きさなのに倍は食うんだよな」
確かにどのハーフリングたちも両手いっぱいに屋台から買ったものを抱えて、もぐもぐと口を動かしている。
「確かに彼らはびっくりするくらい食べるわね」
「今回の興行は十日くらいしかないんだけどさ、大人気でチケット取れなかったんだよね。婆ちゃんが行きたがってたんだけど」
「どこのサーカス団かしら」
「砂漠の星一座だね」
「ああ、一番大きいところね……ああちょっとそこのあなた」
私は肉串を握りしめたハーフリングに声を掛けた。
ハーフリングはエルフをあまり怖がらない、稀有な種族なのだ。
「なあに?」
「今の座長さんは誰なの?」
「ロンロンだよー、今はテントでお仕事してるよ!」
残念ながら、面識のない子が座長さんのようだ。
「あら、レイレイじゃないのね……」
「レイレイ? 二代前だねっ! お姉さん、レイレイのお友達?」
「そう。もう二代も変わってるのね」
「エルフさんはみんなそう言うんだよね。レイレイはもう死んじゃったけど、ひ孫なら空中ブランコやってるよ?」
「そう……」
「チケット欲しいの?」
「この人のお婆ちゃんがね」
ハーフリングはピョンと飛び上がって、満面の笑顔になった。
「ねえ、青い髪のエルフさん! お姉さん、ジューン?」
「ん? そうだけど……」
「エルフのジューンに会ったらチケットを渡すことになってるよ! なんだっけ、んー」
ハーフリングはポーチからチケットを取り出し、裏に自分の名前を書き入れた。
そしてようやくチケットと引き換えにお願いすることを思い出したようだ。
「これ、フリーパス券! 四人まで一緒に入れるよ。えっと、そのかわりに防犯バングルの整備と新しいの作ってもらうって」
「ああ、そんな約束した気がするわね……」
「うん、じゃあ暇があったらテントに来てね!」
ハーフリングは肉串を食べ終わり、新たな屋台へと突進していった。
「ふふっ、チケットどうぞ。メモ帳のお礼よ」
私はチケットの裏にフランツに譲渡した旨を書き入れ、手渡した。
フランツは大喜びで礼を言い、屋台の朝食をご馳走してくれた。
「こんな都合よくチケットが手に入るとは!」
「古い知り合いなの。今の座長さんとは面識ないのだけれどね」
長生きをしていると、時々こういう偶然が起きる。
辿っていけば知り合いの子孫だったとかね。
砂漠の星一座はその昔、私から防犯バングルを買ってくれたことがある。
小さな彼らは魔法が得意ではなく、当時は誘拐されることが多かったからだ。
幼児のような容貌の可愛らしいハーフリングは、違法な奴隷商に狙われやすい。
(今はそういう奴隷商も少ないし、いい時代なんじゃないかな)
もちろん、油断は出来ない。
違法な奴隷商が居なくなったわけではないから。




