ローランの情報
「いやー、お姉さん美人だねえ」
そういう垂れ目の優男、フランツもかなり容姿は整っている。
アルシア王国の裏社会、それを牛耳るアマンダの腹心なのだが……。
アマンダが表向きは王国御用達の商会頭であるように、フランツも王都で実家の文房具店を手伝っている。
(エイプリルとしては面識があるけど……美人に弱いのはブレないわね)
古代ホムンクルス引き渡しの条件は、王都とローランにある屋敷を貰うこと。
そして、ローランに詳しい人間を紹介することだった。
その詳しい人間が、フランツというわけのようだ。
もちろん私はエイプリルではなく、ジューンとして初対面であるよう振る舞っている。
「エルフにそんな冗談を言うなんて、度胸があるのね」
「冗談? 美人を美人と言っただけだよ。エルフは本当に綺麗だからなぁ、眼福眼福」
フランツはニカッと白い歯を見せ、メニュー表から適当に軽食と飲み物を選んだ。
ここはアマンダの表向きの顔であるフレッドの所有する喫茶店の、静かな個室だ。
「ふふっ、褒め言葉は素直に受け取っておくわね」
「うんうん。……で、知りたいのはローランのことだってボスから聞いてるけど」
片眉を上げ、再び笑顔になったフランツ。
悪い男には全然見えないけれど、裏社会の人間であることに間違いない。
背中を見せてはいけない種類の人間である。
「そう。私はアルシアに来て一年くらいだし、歴史には詳しくないの」
「歴史。ほんとに、ただの歴史?」
「そう」
フランツは驚いたように身を乗り出し、思い直したように座り直した。
「まさかボスの依頼が歴史談義……」
「おかしいと思った?」
「ああ。相手はエルフだし……まさか、ただの歴史の話とは!」
聞きたいのはローランがどういった性質の国だったか、戦後と今ではどう変わったのか。
平民や、ローランの旧貴族はどうなってるのか。
質問は溢れるほどある。
「うちの祖先のルーツはローランでね」
フランツが手をゆったりと組み、背もたれに身体を預けた。
「長年戦争をしていたローランとアルシアが和平という名目で、戦争を終わらせたのは三十年ほど前」
「ええ」
「実際は和平とは名ばかりで……アルシアがローランを吸収したから、国名はアルシアになった」
そのへんは有名だから知っているが、解釈は自分がどの陣営にいたかで変わってくるだろう。
フランツの言葉の選び方は、中立的でありながら、ややローランに情があるように聞こえた。
「ローラン最後の王女を、アルシアに輿入れさせてアルシアの王族として血を繋いでいくというのが合意条件で、現在の正妃が旧ローランの王女だね」
「王妃ってまだ若かった気がするんだけど」
「んー、今三十五歳くらいかな? アルシア国王と政略結婚したのは五歳だったし」
「あー、政略結婚……」
この話はうっすら覚えている。
フランツがエイプリルに話した内容と一致しているので、概ね正確な情報と思える。
「ローランは……いわば敗戦国。だけど、納得したわけじゃない」
「うん?」
「最後の王は王女をアルシア王に差し出し、その後自決している」
「…………」
「もちろん、妻である王妃も。正式な子は王女だけだったから、ここでローラン王朝は断絶」
(なるほど、ここからは私が知らなかった生きた歴史……)
「ただ、ローラン国王には愛人がいてね」
「ありがちね」
「まあね。戦後のどさくさで平民の愛人は逃げおおせたというか、捨て置かれた」
「ええ」
「半年後、その愛人は男児を出産した」
「それは事案ね」
「その男児はまさにローラン王家の色だったそうだけど、愛人だった母とすぐに消息不明になってる」
フランツは一気に話し切り、新しい珈琲を注文した。
「お姉さんが知りたいのは、裏話とかそういう話だよな? 雑貨屋のおばちゃんに聞いてわかるような話じゃなくて」
「そうね、そのとおりよ」
「だろう? 俺は役に立つぞ」
「期待してるわ」
「うん、まあ今のアルシア北部……ローランは静かだよ」
今は、ということか。
どちらにせよ、私がローランに居を移すのは勇者問題がすべて片付いてからだ。
それまで、このフランツから噂話を仕入れておこう。
生きた歴史を知っている人物は、貴重。
(たった三十年前の話だもの。まだ関係者は存命。聞けそうな話は全部聞いておこう)
私はフランツを見つめ、愛想よく微笑んだ。




