美容?談義
一旦家に帰って着替えを済ませたミシュティが、スタッフ用の寮である2階建ての家に戻ってきた。
「やけにフワッフワじゃないの」
「はい。あの泥、凄いです。ものすごく毛に艶が出ました」
「泥パックみたいな感じなのかしら。龍の水遊び後の泥が……」
「ふむ」
バルフィが顎に手を当て、考え込んだ。
「売れそうかと思いましたが……安定供給が出来ないからダメですね。ですが、ミッシュが──」
「ミッシュ?」
「あ、いえ、ミシュティが転倒した付近の泥は回収しておきます」
「自家用なら良いかもね」
「祖母と母が最近毛艶を気にしてるので」
「一旦葉っぱとか小石みたいな不要なものを除去して、乾燥させたらいいと思う」
ミシュティが爛々とした目を見開き、バルフィに詰め寄った。
「私の分も──」
「わかった、わかってるって」
「あ、報告書があるんだった」
バルフィが差し出してきたのは一枚の紙。
「かっこいい龍舎名にしたのはいいんですが、わかりにくいということで暴虐の龍舎という名前で登録申請しました」
「暴虐……」
「はい」
「もう登録はしたんでしょ? まあいいわ」
ひよこ島に戻り、ミシュティからも色々溜まっていた報告を受ける。
「アマネさんがジューン様と以前に行った本屋さんに行きたいそうです」
「わかった、明日にでも連れて行く」
「セシリアさんへのレッスンが始まりましたが、ひどいです。全く基礎が出来ていません」
「でしょうね……」
「ですが、やる気はあるようなので当面は基礎の反復です」
一通り報告を聞いた後、お茶を淹れてもらいリフレッシュ。
ミシュティが、個人的な疑問なのですが……と断りを入れつつ話しかけてきた。
「なあに?」
「転移ラメン屋さんでのことなのですが……マサオさんは、力が弱いことを気にしてらっしゃいましたね」
「そうね」
「魔道具で補完するのはどうなんでしょう。なぜ使わないのでしょうか」
「そうねえ、そういうブースト系魔道具として動力を魔核で補うものは存在してる」
「はい」
「魔欠けと呼ばれる人たち……先天性魔臓欠損、後天性魔臓欠損、魔臓が無い異界人。大きく分けて三種類あるんだけれど」
「はい」
「魔道具を正しい目的で作動させられるのは、後天性魔臓欠損者だけ」
「後天性だけですか」
「自分の魔力が少なくても、魔核入りの魔道具ならそこは補えるんだけど……0か1かの差は大きくて、絶対に埋められないの」
「0か1……後天性の方が1でしょうか」
「そう。一度でも魔臓があって、身体に魔脈が形成されていれば……その魔脈の名残を利用して魔道具を動かすことができる」
「あ、先天性や異界人には魔脈がないから……」
「それもあるけれど、使用不可なわけではないの。起動するのは魔核がやるので、動かすことだけは出来る」
ミシュティは頷いた。
「ただ、魔臓も魔脈もない人がそれを使えば負荷が大きすぎて」
「はい」
「筋力アップなら筋肉が破裂、視力なら視神経が焼かれる。一瞬魔道具の恩恵は受けられるけど、必ず使った部位は破壊されてしまうの」
「必ず、ですか?」
「私が知ってる限りではね。もしかしたら例外もあるかもしれないけど、聞いたことはない」
「なるほど……魔脈が有無、あったかどうかでも結果が違ってくるのですね」
「そういうこと」
ミシュティはおかわりの紅茶を私に勧めながら、小さく息をついた。
「魔力付きの魔道具があるのは知っていましたが、誰にでも使えるものじゃ無いのですね。勉強になりました」
「魔界じゃ滅多に魔欠けを見ることがないもの。知らなくても不思議じゃないわ……あっ、ちょっとソフィーちゃん……」
いつの間にかテーブルの上に来ていたソフィーちゃんが熱々の紅茶に飛び込んでしまった。
たまに起きることなので、やけどの心配はないけれど毎回驚いてしまう。
「カップを新しいものにいたしますね」
新たに出されたカップで、ゆっくり紅茶を飲んでソフィーちゃんを眺める。
彼女が飛び込むカップは、大抵熱々の紅茶が入っている。
紅茶風呂がお好みなのだろうか?
(ミルクティーには入らないから、飛び込む液体は選んでるっぽいけれど……)
紅茶風呂か。
茶葉を入浴剤にするのは昔からあるけれど、すべてが飲めるような濃度の紅茶だったら?
入ったらどんな感じがするのだろう。
ちょっと試したくなってきたわ。
「湯船が着色してしまうのでは……」
ミシュティの毛も染色されちゃうかもね?




