赤ちゃん龍の女王、アーモンドゲイズ
「ジューン様、今日のご予定は?」
「特にないわね」
「でしたら、龍島にアーモンドゲイズちゃんを見に行きませんか?」
「あ、そうね。まだ見てなかったから、行きましょう」
龍島に着くと、赤ちゃん龍たちは大型バイクくらいのサイズになっていた。
バルフィによると、一般的な龍は一年で成体サイズになるようだが、脳や精神が成熟するのは百年ほどかかるとのこと。
「皆元気ね」
草原や森は焼け野原、あちこち大穴があいている。
龍島はすっかり岩山と焼け野原の素っ気ない外見になっていた。
「……まあ、赤ちゃん龍が百頭もいたらこうなるか」
半ば呆れて呟いた矢先、ミシュティが転倒した。
一見地面に見えたが、よく見たら泥沼だ。
穴を掘って水遊びをした子がいたのだろう。
「……着替えてまいります」
ミシュティは落ち着き払ってそう言ったが、耳がイカ耳になっているので相当ご立腹のようだ。
バルフィは笑い転げていたが、私はかろうじて真顔を保った。
「アーモンドゲイズはあの岩山の向こうに巣があるんです」
バルフィに案内され、噂の美女龍を拝みに足を向けると、数頭の赤ちゃんたちが突進してくる。
バルフィは慣れた様子で障壁を張り、突風で赤ちゃんたちを転がした。
ある程度魔法が使えなければ、中々命懸けの龍牧場である。
(さすがミシュティの弟……侮れないわね)
少し歩いた後、小花が咲き乱れる一画に到着した。
「ここだけは幼龍も荒らさないんです。女王がいるので」
「なるほど、アーモンドゲイズの巣の周辺だから」
「はい。彼女は花が好きなので」
「いい趣味ね」
野原に優雅に鎮座しているアーモンドゲイズは、なるほど競龍界随一の美女龍と言われるだけあって、素晴らしく美しい龍だった。
属性は土、その鱗は金が混じった焦げ茶色でなんとも言えない上品さで艶めいている。
不思議そうにこちらを見つめる瞳は抜けるようなティファニーブルー。
「ほんとに美しい子ね……」
「美しいだけではありません。末脚の強い子でして、戦績も文句なしなんですよ」
側によると何かくれると思ったのか、首を伸ばしてくる。
「アーモンドゲイズは卵から育てられた龍なので、とても懐っこいですよ。ハチミツが大好きなんです」
ハチミツ……メア・ビーの巣蜜ならもっている。
お近付きの印に一つ進呈しよう。
「メア・ビーの巣蜜だなんて、私も食べたことないのに……」
嬉しそうに巣蜜を一口で頬張ったアーモンドゲイズを見て、バルフィは恨めしそうに呟いた。
「まだあるわよ、後で寮で出してあげる」
「やった!ありがとうございます!」
「爪がピンクね……」
「ああ、ミシュティが塗ったんですよ。アーモンドゲイズはすっかり気に入って、時々塗り替えてもらってます」
「ふうん」
だが、この塗料は一般的に流通しているマニュキュアではないようだ。
「……植物由来の魔法塗料か」
「そうです、ミシュティが使うマニュキュア程度じゃ千個あったって足りないですからね」
後ろ足の爪には花模様。
アーモンドゲイズはずいぶんと女子力が高いようだ。
「アーモンドゲイズは、保母さん役って聞いたけど……」
「そう思って買ったんですが、女王ですね。アーモンドゲイズには逆らわないので結果オーライです」
「他に変わったことは?」
バルフィは少し言い淀んだが、寮に向かう道中に話し始めた。
「実は……いえ、龍育成には全く関係ないのですが」
「なにかしら」
「ポチが時々アーモンドゲイズのところに遊びに来てます」
「ファッ?」
思わず変な声が出てしまった。
ポチめ、相当面食いだったようだ。
「微笑ましくていいんですが……時々とんでもない贈り物を持ってくるんです」
「……例えば?」
「暴れ回る食虫花とか」
「まさか食虫植物をプレゼントに? なんてセンスがないのかしら」
「討伐に三日かかりました」
「なんかごめんなさいね?」
「アーモンドゲイズはあまり魔物を見たことがないらしく、怖がって逃げちゃって」
「あらまあ」
「まあ、結局は花畑を荒らされて怒ったアーモンドゲイズが踏み潰して終わったんですけどね」
ポチ……女性に贈るのに食虫植物は向いてないと思うんだけれど。
全くひどいとしか言いようがない。
「その後も見た目は綺麗だけど激臭の花とか」
「ああ、そう……」




