クリムゾンヘルファイア、帰宅
「猫が欲しいんだよ」
「猫」
「アマネは犬と剛蟲飼ってるのに、俺は剛蟲しかいない。だから巨大な猫が欲しい」
「巨大になったらそれはもう猫じゃないじゃないの」
クリムゾンヘルファイアを迎えに来たフレスベルグとアマネだが、いつものようにアマネはミシュティのいる厨房に行きフレスベルグは客用サロンで文句を言っている。
「なんでだよ、おっきい猫、この世界には居そうじゃない?」
「魔物か、豹とか山猫なら……」
「凶暴なのはヤダ。普通の猫がいい」
「じゃあ普通サイズのを探せば?」
「いやいや……犬だって五十キロくらいの大型いるじゃんか。猫もそれくらい──」
私はだらけた姿勢でソファーを占領するフレスベルグを見て、ため息をついた。
「犬は肉食寄りの雑食。猫は完全なる肉食」
「お、おう……?」
「飼い猫が猫でいられるのは、あのサイズだからよ。それ以上大きくなったら、殺傷能力が高すぎる」
「そうかなぁ」
「家猫はあのサイズだから人と共存できるの。それが五十キロになったら、もう猛獣よ」
猫は完全肉食なので、大きくなればなっただけ必要な獲物の量が急激に増える。
そして筋力・瞬発力・爪・牙の威力も跳ね上がる。
更に静かな待ち伏せ型ハンターなので、一度狙われたら人間だって無事じゃいられない。
「うーん」
「あちこち出かけたいなら、やめておいたほうがいいわよ」
「クリムゾンヘルファイアはここに預けられるけど、猫はなぁ……」
「そもそも猫って気軽に預けられないんじゃない?テリトリーから出すとストレスかかるって言うし」
「言われてみればそうだなぁ……」
フレスベルグはしばらく黙り込んだ。
「大きい猫……ミシュティも猛獣か」
「ミシュティは妖精でしょ、猛獣並の戦闘能力はありそうだけれど」
当のミシュティがフルーツとクリームがたっぷり巻かれたクレープを銀盆に積み上げてやって来た。
紅茶のいい香りが漂い始め、フレスベルグはいそいそとテーブルについた。
「僕が巻いたんだよ」
「マジか、上手いなぁ」
本当に綺麗に巻けている。
クレープ生地はもっちりとして薄く焼き上げられ、甘さ控えめのクリームから覗く果物の鮮やかなこと。
私が一個を食べている間に、山積みのクレープは消え去っている。
(二人とも、胸焼けしないのかしら……)
ステファニーの本屋から買った、限定本の特典である激レア剛蟲の卵を孵化させる事を思い出したらしい二人。
彼らとクリムゾンヘルファイアが帰ると、ディーはかなり寂しそう。
彼女はソフィーちゃんを咥え、外に出かけていった。
最近のソフィーちゃんはそうやってディーを乗り物代わりに使っているようだが、ディーに不満はなさそうだ。
「そうでした、一つご報告が」
「何かしら」
「ポチ温泉が少し拡張されてまして……深さ三メートルの浅い部分が十メートル四方出来てます」
「それって──」
ミシュティは真面目な顔で頷いた。
「ビビちゃんが浸かってます」
「ビビちゃんが……やっぱり。と言うことはポチが掘ったんでしょうね」
「そのようですね」
ポチに続き、ビビちゃんも温泉の虜になったようだ。
巣は温泉から一番遠い場所にあるが、ビビちゃんは転移を使えるので問題はなさそうだ。
私たちは早速温泉に様子を見に行くことにした。
「ほんとに浸かってる……あ、そうだ。ビビちゃんを鑑定しておきましょ」
「私には屍龍、雌までしかわかりませんでした」
「鑑定結果は使った本人の知識量に応じるから、まだ若いあなたならそうなるでしょうね」
ふむ。
予想通り、屍龍であるビビちゃんの元の姿は蛇系のようだ。
「シーサーペントの亜種、陸地に最適化した龍種みたい」
「シーサーペント……骨格は龍、ですよね?」
「陸地に最適化した形が龍形態だったのかしらね。亜種だからそんなに数はいなさそう」
肩?までお湯に浸かっているビビちゃんは幸せそうだった。
身体の力が抜け、尻尾の先の骨だけが水面にふよふよと浮いている。
「骨なのでよくわからないですね……」
「そうね、小さめの龍にしか見えない」
「転移ラメン屋のお鍋の中みたいです……」
「ああ、骨を煮てるもんね……あ、ラーメン食べに行く?」
「行きます。麺半分、ヤサイマシマシで」
「私もそれがいい」
私とミシュティは夕飯を王都の転移ラメン屋でとることに決め、早めに移動することにした。




