ソフィーちゃんとビビちゃん
魔咆犬たちは、さすがに屍龍の骨を齧れなかったようだ。
彼女たちは威勢はいいが、まだ子犬。
補足するならば、成犬でも五キロ程度にしかならない犬だ。
五メートル級の龍の骨格には、小さな犬の口が食い込めそうな場所がない。
噛みつこうと大口を開けても間に合わない。
犬歯が引っ掛かる隙間もない。
小骨ですら骨同士が繋がっていて動かない。
(あ、物理的に無理っぽいわね。どの骨も連結してるし)
どうやら心配は杞憂だったようだ。
クリムゾンヘルファイアが帰宅したらディーも落ち着くだろう。
どちらも陽気な犬だが、クリムゾンヘルファイアは好奇心が強く怖いものしらず。
ディーは気は強いけれど内弁慶だから。
それに彼女たちはミシュティから貰った骨を島中に埋めているので、おもちゃにする骨には困っていないのだ。
ビビちゃんは誘導されるままに巣に入って、すぐに丸まって休憩スタイルになった。
「ビビちゃん、明日はみんなにご挨拶、明後日は峡谷に戻ってお仲間たちとポテトフライのご褒美よ」
眼窩に灯る魔法的な青白い光がチラチラと瞬き、ビビちゃんは頭をこちらに向けた。
「いい子ねえ、さあ今日はゆっくり休むのよ」
翌日、外に出て見て曇り空なのを確認した後、ビビちゃんを外に誘導する。
「うん、大丈夫そうね」
元が龍だし、快晴だろうと吹雪だろうと問題はないのだが、理想的な環境は薄暗い静かな場所なのでそこは考慮しておくべきだ。
好戦的な気質の魔馬のユーニウスはすぐにビビちゃんを受け入れ、気にしなくなったが少し臆病なペガサスのペルルは近寄ってこない。
が、攻撃的な雰囲気ではないしビビちゃんも大人しくウロウロしている。
マカロンちゃんと気質が似ているのだろうか、すぐに身を寄せ合って一緒に彷徨い始めた。
ずいぶんとマイペースである。
(マカロンちゃんもポチに咥えられて散々だったけど、何も気にしてないっぽいし……ビビちゃんとは気が合うのかも?)
ポチとビビちゃんは元々知り合いであるし、わざわざ挨拶をする必要はないかな。
明日峡谷でまた顔を合わせるはずだし。
そもそも龍たちってこっちにはわからない何らかの方法で意思疎通してるから、問題ないだろう。
問題はソフィーちゃんだ。
死の島で仲良く寄り添っていたので、共生するにあたって不具合はないのだが。
死霊の森で大型化して勇者たちを殺しそうになったので、原因を調べてからじゃないと封印の籠から出せないのだ。
全員の顔合わせが済んだところで、私はようやく屋敷へと戻りリビングの鳥籠からソフィーちゃんを出してあげた。
「ごめんね、閉じ込めて。さあ今からはソフィーちゃんの時間よ。大好きな金蛇の実をどうぞ」
手のひらの上のソフィーちゃんは、好物を頬張り始めた。
(…………やっぱり背中にあったのは翼か)
先日までただの突起だった背中の瘤は、今は小さな翼になっている。
小さいから魚のヒレみたいだけれど。
頭の方の突起も、二本の対になった角のように形が変わっている。
大きさも色もかわりはなく、今は大人しく実を食べているが……あの姿に変じるトリガーがわからない。
「……あら?」
ソフィーちゃんは今まで私の魔力を吸っていたのだが、今は吸われていない。
完全に自己魔力が巡回している。
枯渇していた魔力が満ちて、本来のあるべき形に戻ったのだろうか。
私はソフィーちゃんを手のひらに乗せたまま、ビビちゃんの元へ向かった。
ソフィーちゃんの魔力が揺れ始める。
だが、異変が起こらない。
しばらくそのままマカロンちゃんと遊ぶビビちゃんを眺めていたが、ビビちゃんがつまずいてガシャンと転倒した。
その瞬間、ソフィーちゃんの魔力が膨れ上がる。
「こら、ダメ」
ソフィーちゃんはそのまままた魔力をおさめたが。
どうもトリガーはビビちゃんのようだ。
ビビちゃんを守るために勇者たちを襲ったと考えると、辻褄が合う。
(断定はできないけれど、可能性は高いわね)
「それにしても……転ぶだなんて、鈍いわねえ」
ソフィーちゃんがするりと抜け出し、ビビちゃんとマカロンちゃんのところに向かった。
マカロンちゃんとは元々仲良しだから、心配はいらなさそう。
三匹は連れ立って山の方へ移動していった。
金蛇草の生えている方に行くようだ。
みんなで金蛇の実を食べに行くのかしら?
蛇の女子会と言ったところか。
ビビちゃんの元の種族は蛇龍だったのかもね。
私はしばらく無邪気な女の子たちの様子を見守った。




