ビビちゃん、ひよこ島へ
カルミラが用意した限定グッズは早々に売り切れ、招待客は転移陣に乗り次々と帰っていく。
原状復帰工事はここ掘れ組に依頼しており、明日から早速作業が始まるようだ。
「さて……とりあえず私の城に戻って乾杯しましょ」
カルミラが宣言したので、各々転移で魔王組合の城内へサロンに向かう。
そこで再会したミシュティは、やや毛並みが乱れグッズ販売の名残を残していた。
「忙しかったようね」
「はい、大繁盛でした。最後は招待客が残った商品を巡って喧嘩を始めちゃいましたけれど」
「足りなかったのかしらね」
「はい。カルミラ様の方針で、数は絞ってあったんです。メイングッズはお一人様一個分確保してましたが、お土産コーナーで」
「へえ」
「結局、ネモ様のお嬢様が仲裁に入ってお客様同士の決闘で解決しましたけれど」
「へえ……ネモの娘。ネモフィラかしら」
「はい、ネモフィラ様です。今度お呼ばれしてるんです」
ネモの奥様は吸血鬼で、おっとりした女性で名をフィーネと言う。
娘は一人で、夫人の種族を受け継いで吸血鬼。
子は何人かいるが、スケルトンの男性ばかり。
どうやらそのネモフィラが、物販を担当していたようだ。
歳はミシュティと同じくらいなので、すっかり仲良くなって今度遊ぶ約束をしたみたい。
「いやあ、笑えたなぁ」
ゲラゲラと笑い転げているレスター、憮然とするフレスベルグ。
「心臓に綺麗にぶっ刺さったな?」
「痛かったんだぞ」
「バカ正直に刺させるからだろ」
「いや、ジューンのせいだから! 拘束魔法で一瞬止められたからだよ!」
「心臓を刺されてすぐにウロウロするとか、魔物かよ」
「ひどい」
テーブルの上はワインの空き瓶だらけで、侍女たちが片付けと補充に追われている。
アマネもいるので、食事やジュースも供されており賑やかだ。
セレナが水槽からグラスに手を伸ばし、のんびりとした声を出した。
「後は夢魔と、ジューンの帰還作業だけね〜」
「あれ?ジューン、仕事多いな?」
ゼグが今更なことを呟く。
「ほんとよ、多すぎるわ。次回は欠席する、絶対!」
「そう言うなって」
身繕いを済ませたふわふわなミシュティが横に来て首を傾げる。
「ジューン様……あの水色の屍龍は、ジューン様の気配がします。島に連れて行かれますか?」
「ああ、あの子ね。ビビちゃんよ」
「ビビちゃん……可愛いです」
「そうでしょう!」
ちょっと鈍い感じのビビちゃんを、あんまり放置してたら可哀想である。
正式な決戦記念パーティーは後日ということなので、私とミシュティは挨拶を済ませビビちゃんを迎えに行くことにした。
「まあ。意外と小さな龍だったようですね、龍にしては小さいです」
嬉しそうに寄ってきたビビちゃんを見つめ、優しく頭蓋骨を撫でながらミシュティは微笑んだ。
「可愛いでしょ」
「はい、懐っこいですね。それに綺麗な色」
「日中に見たらもっと綺麗よ」
「日中……ビビちゃんのおうちはどうされるんですか? 日当たり良くないほうがいいですよね」
「うん、アンテッドだしね。東端に地下壕を掘ろうと思って」
夜のうちに掘ってしまわないといけない。
ひよこ島は、全体的に日当たりがいいから。
「作業自体は一時間もかからないから、その間ビビちゃんを見ていてくれる?」
「はい、ジューン様」
そんなわけで私たちはビビちゃんを連れて、ひよこ島に帰還した。
「場所は海岸からちょっと離れた硬い地面、ポチ温泉の対極にあるここがいい」
「龍同士ですものね。ポチさんは怒らなさそうですが……」
「後はドーナツたちよ。一匹なら来ないかもだけど、姉妹と二匹なら気が大きくなって見に来るかも」
我が家の魔咆犬はおとなしい方だと思うけれど、まだ子犬なので何をするかわからない。
ビビちゃんを齧られたら大変。
ビビちゃん自身は特に臆することはなく、周囲をうろつき始めている。
ミシュティは頷くとビビちゃんの後を追い始めた。
「さて 五メートル級の龍の巣……」
五メートル級の龍の巣とはいえ、動き回るための空間はいらない。
アンテッドなので、生きていくために必要な食事や排泄に場所を取る必要がないからだ。
身体を丸めて眠れる窪みと、向きを変えられるだけの余白があれば充分。
私はとりあえず直径十五メートル、高さ七メートルほどの空洞を掘ることにした。
足りなければ後日調整すればいい。
「こういう時、魔法は便利よね〜」
穴はあっという間に掘り終わった。
後は不壊魔法をかければ完璧なのだが、後から直すかもしれないので仮で土砂崩れ防止の障壁を張っておこう。
天井部分には氷属性の魔核を埋め込み、冷気が下りて来るように調整。
アンテッドなので、冥界に咲く冥連草などビビちゃんが好むタイプの植物を植えておけば住心地が上がるはず。
きっちり一時間、ビビちゃんの仮住まいが完成した。
穴の外からディーとクリムゾンヘルファイアの唸り声が聞こえてきているが、吠えかかったりはしていないようだ。
(よし、これでビビちゃん問題は一旦解決ね)
朝になって他の子と顔合わせするまでは、ついていなければいけない。
私は穴の中に寝袋を置いて、騒がしい方向へ足を向けた。




