最終決戦③
控室のモニターはまだ一部稼働している。
途中退場となった、老犬ハナちゃんは廃村に眠らせたまま戻してある。
『ハナ、ハナぁ!』
勇者が寝ぼけたままの柴犬を抱きしめる。
当の犬は「え、なに」と言った顔だ。
『どこかに飛ばされて戻ってきたのか?』
『わからないけれど、無事でよかったわ』
『誰も欠けることは無かったのは僥倖だった』
ロウが火を起こし、ラウゲンが狼煙を上げるアイテムを投げ入れた。
赤い煙が真っ直ぐに空を目指していく。
『これで沖の船はじきに近寄ってくる……それまで傷の手当てを』
『そうだな』
勇者たちは火を囲み、ロウが入れたお茶を手に取った。
『治癒魔法は必要なさそうですね』
代理聖女のシーンが優しい声で包帯を巻いていく。
『ありがたいことにな。傷は痛むが、致命傷は免れた』
『皆さんの実力ですわ』
傷の手当てが終わり、ロウが小さな焼き菓子を配り始める。
たっぷりの砂糖でアイシングされたクッキー。
一行は黙ってそれを噛み締めた。
『甘いな』
『甘いけど、染み渡るわぁ』
『そうだね……』
『ねえ、グラン。聖剣はもういいの?』
『船に乗ればもう戻れないぞ。取りに行くなら──』
『いいんだ』
勇者がロウの言葉を遮り、強い口調でそう告げる。
『いいんだ、あの剣はあのままで』
魔核のあった場所に、鞘に納めた聖剣を無言で置いてきた勇者が呟く。
『アレはあの場所に置いておくべきだと、そう思ったんだ』
『そうか』
『うん』
勇者はすり寄ってきたハナちゃんを優しく撫で、その身体に顔を埋めた。
『見ろ、船が来たぞ』
『良かった……』
やがて船から二艘の小舟が降ろされ、死の島へと向かってくる。
ロウは火を消し、立ち上がった。
『さあ、岸まで行こう』
アラインは転移を使えるのだが、あえて船で帰ってもらうのはこちらの事情だ。
決戦後はおそらく魔力が足りず、転移は出来ないだろうと事前にパーティメンバーに説明してあったので、船が沖で待つ作戦になったのだ。
勇者たちは小舟に乗り、船へと向かっていく。
周囲はすでに闇に包まれ、美しい星空だけが光源だった。
「…………終わった」
「まだ後始末があるのよ」
温泉から戻ってきたフレスベルグに、カルミラが言い返した。
「一ヶ月かけてアルシアに着いて、その後は凱旋パレードだろ、そうすると帰還は一ヶ月後だな?」
「そう、パレード後は王城で宴になるから、その夜に夢の中で帰還の意志を聞くわ」
帰ると言えば、ハナちゃんと転移した瞬間の座標に勇者を送り返す。
翌朝、勇者は姿を消して伝説になるのだ。
帰還しなかった場合はこの世界で生きていくことになるが、大抵の勇者たちは帰っていく。
帰還の有無に関わらず、勇者には大幸運の付与を施す。
ただ働きという言葉は、魔王組合の辞書にはないのだ。
勇者たちは島を去り、動いているモニターは一つだけ。
招待客ブースでは限定グッズの即売会が行われているからだ。
残っていたスタッフたちは全員そちらに応援に行っている。
「盛況ね」
「当然よ、今しか買えない限定ですもの」
「結局黒字なのか?」
「そうねえ、決戦地は原状復帰でラウバッハに返すから、その費用によっては赤字かも」
「マジか」
「あ、でも総集編も出すし多分大丈夫」




