最終決戦②
──やがて聖剣は眩い光を放ち始める。
レスターが作ったその剣は、柄に高純度の聖核が仕込まれている。
起動するための魔道具はアラインが所持しており、彼が魔力を注ぐと剣が強力な聖属性を付与され輝くのだ。
『ほう、まだ抗うか』
『俺は……、俺は負けられないんだ!』
光が謁見の間を満たし、鈍い音が響き渡る。
訪れた静寂。
『やったか……?』
一瞬の気の緩み。
次の瞬間、勇者たちは床に叩きつけられる。
鎧が全て壊されたフレスベルグは血まみれで、静かに立ち上がった。
その背には片翼がちぎれた大きな黒い翼。
最終形態である。
《ジューン、フレ兄が血だらけだよ》
《丈夫だからすぐ治るわ、見てご覧なさい傷はもう塞がっているわ》
《ほえぇ……》
『くそ、まだ倒せないのか』
『鎧は壊れた、攻撃は通るはず……』
勇者たちは立ち上がり、再び武器を構える。
彼らの装備もかなり傷ついており、カレーニアは魔力切れ寸前。
息を切らしたラウゲンが、隙を縫って彼女に魔力回復のポーションを手渡した。
代理聖女とアラインの魔力には余力がある。
『クソっ、なんで、なんで──!』
『諦めて、グラン! 魔王は止められない……なら終わらせるしかないのよ!』
フレスベルグはバングルを外し、死角にある合図があった時だけ高火力の全体攻撃を繰り出す。
これは勇者たちが致命傷を負わないための仕組みだが、それを知らされていないアラインが素早く障壁を繰り出すため今のところは発動していない。
フレスベルグが斬撃を放ち、勇者に直撃。
『グランっ』
思ったよりクリティカルだったらしく、勇者が崩れ落ちる。
アラインが背後から緊急用に渡してあった特級ポーションを、勇者の頭めがけて投げつけた。
《ねえ、なんで頭》
《鎧に当てても浸透しないからよ、頭ならもう兜は壊れてそのままだから》
《なるほどぉ》
うめき声を漏らしながら勇者が立ち上がる。
その瞳はまだ強い意志を宿している。
ポーションのおかげで傷はあらかた塞がっているが、蓄積した疲労までは軽減されていない。
『やるしかないのか……』
勇者が呟く。
再び聖剣が輝き始めた。
『アイヒェルーッ!』
『来い、愚かなる勇者よ』
両者が肉迫し、剣が触れ合う音が響き渡る。
聖剣が魔王の頬を切り裂き、勇者も肩に斬撃を受け、飛び退く。
──もう言葉を交わす余裕などない。
黒い魔王、白く輝く勇者はどちらも退くことなく再び切り結び始める。
勇者の息が上がり、肩を揺らし始めた。
『負けない、負けられないんだ』
私は玉座の後ろにいたカルミラの手が上がったのを確認し、フレスベルグに拘束魔法をかけた。
フレスベルグの動きが僅かな間停止。
そして、勇者の聖剣が魔王の胸へと突き立てられた。
崩れ落ちる魔王。
身体から紫色の濃い靄が立ち上がる。
魔王が倒れるまま、聖剣は引き抜かれていく。
やがて靄は中が視認できないほど濃密さを増し、崩壊していくホムンクルスを出したフレスベルグは控室へと転移。
『やった……魔王を……』
立ちすくむ勇者のそばにパーティが駆け寄る。
やがて薄くなった靄の中、魔王の身体が崩れ去っていく。
『…………アイヒェル……』
喜ぶパーティメンバーとは裏腹に、勇者の瞳からは涙が零れ落ちる。
勇者の足元には大きな闇属性の魔核と、黒い羽が散らばっているだけ。
高純度の魔核は強い魔族だけが残す命の証。
勇者はそれを拾うことなく、佇んでいる。
『長居は無用だぞ』
『うん……』
ラウゲンが魔核を拾い、王子殿下に手渡した。
『グラン、もう行こう』
『うん……』
勇者たちは満身創痍で拠点としていた廃村へと戻っていった。
私はその背を見送ったあと、黙りこくったアマネを連れて控室へと戻った。
「酷い、あの勇者心臓刺してきた!」
「殺すんだから心臓一択だろ。頭でもいいけどな」
レスターとフレスベルグは大騒ぎだ。
「痛かった! マジ痛かった!」
「フレ兄! 大丈夫?」
心配そうなアマネの頭をワシャワシャと撫で、フレスベルグはふんぞり返った。
「大丈夫だぞー、痛かったけどな! 温泉行ってきていい?」
「どうぞ」
「僕も行くー」
フレスベルグとアマネは温泉へと転移していった。
「長かったけど、やっと済んだわね」
「ええ。あとは勇者帰還だけね」
カルミラは私の呟きに、囁くように答えた。




