最終決戦①
魔王と勇者たちの接戦を目の当たりにしたアマネは、どんぐりのように丸く見開かれた瞳で瞬きもせず見入っている。
握っている手は熱く、ギュッと力が入っている。
フレスベルグが放った魔法が王子の斬撃で軌道を変えこちらに向かってくる。
私はそっとその魔法を打ち消し、アマネに怪我がないか覗き込んだ。
《すごい、ジューン今のどうやったの》
《ふふっ、魔法の構築を読んで逆から組んだ魔法を当てただけよ》
《かっこいい……僕にも出来る?》
《もちろんよ、経験積めばね。たくさん練習しなきゃだけど》
フレスベルグがバングルでハンデを負ったことで、両者は拮抗した戦いになっている。
魔王の鎧には最初から各所に穴が穿ってあるので、ピンポイントで大きなダメージが入れば壊れるようになっている。
鎧が破壊されるたび、勇者たちの意気は上がっていく。
《僕もやりたいよ》
《いいんじゃない? 大人になったら魔王組合に推薦してあげるわ》
この子も星核転生者なので、資格は充分だ。
きっととても強くなる。
だが、今は無理をさせる段階ではない。
この世界に来て間もないアマネは、その頑丈で才能豊かな身体を過信している時期だからだ。
前の世界で大怪我になるような事態にあっても、無傷──子供がそれを過信してしまうのは当然と言えば当然なのだが。
鎧の破片が飛んで来たが、それも空いている方の右手に構えた剣で叩き落とす。
端にいる私たちに気がつくものは居ない。
フレスベルグでさえ気づいてないはずだ。
(気がついていたら、絶対にこっちに何かを飛ばすような真似はしないもの。フレスベルグはこの子をとても可愛がっているから)
アマネは十二歳とまだ未熟で、大人でもないがまるっきり子供という年でもない。
まだまだ保護が必要なフレスベルグの大事な弟。
アマネに愛を注ぐ一方、それはフレスベルグの力にも枷にもなる。
(今後、フレスベルグ唯一の弱点はアマネになる……この子はしっかり教育をしておかないとね)
《ねえ、その剣かっこいいね? どうして剣先が透明なの》
《使っているうちに魔力が馴染んで魔剣になったの。私の髪の色よ》
魔剣ベルシュナ・ヴァリは刀身の根元はティファニーブルーで、剣先に近づくにつれ透明になっている。
私が一番気に入っている愛剣だ。
《魔剣欲しい》
《良い武器を使い込むと、魔武器になることがあるの。アマネも魔力が大きいし濃いから作れるわよ》
《おおー》
《最初から育てるなら、数千年かかるけどね?》
《うえー、そんなに?》
フレスベルグの鎧の胴部分が割れ、床に音を立てて落ちた。
『アイヒェル! まだ、まだ退かないのか』
一瞬の静寂のあと、勇者が悲鳴のような叫びを上げた。
『退く理由がない』
フレスベルグの声は重厚で、謁見の間全体に広がっていく。
『我の目的は人類の息の根を止めること──止まる理由がどこにあろうか』
『こんなの間違っている! 魔王が誰かを愛したなら、人間だって同じだ!』
『我が最愛は戻らぬ。それが答えだ』
フレスベルグの斬撃が勇者を吹っ飛ばす。
だが、勇者はまだ説得を諦めない。
勇者は今まで率先して命を奪ったことがない。
結果的に魔物や敵を斬ることはあっても、いつだってそうならない方向を模索してきたのだ。
勇者が殺したことになっている人型の種族は、全員魔王組合と勇者チャンネル実行部の仕込みで、実際は誰も死んでいないのだが……。
(こっちの都合で召喚した子に殺人の業を背負わせるわけにはいかないもの)
帰還するときに、女神に扮した夢魔が夢の中で死んだ者は全て女神が救い生きていると告げる事になっている。
《あ、床が崩れたよ、ジューン》
《時間が来たら崩れることになってるの。ここは範囲外だから大丈夫よ》
勇者側のエリアが一部崩れ落ちる。
これにより、前衛と後衛が分断された。
『まずいぞ、足場が──』
『案ずるな』
アラインが静かに口を開き、崩落からものの十秒足らずで床の隙間を魔法で埋めていく。
《あのエルフ凄いね?》
《そうね、エルフだからとしか言えないけれど》
エルフの魔法戦闘能力はデタラメなので、アラインがそれをやってのけたのは不思議ではない。
他種族から見たら、それがおかしいということなのだけれど。
『…………』
勇者は無言で再び聖剣を構えた。
空気が震え、淡い光が剣先に集まっていく。




