後半戦
声は出せないので、魔力的威圧で場を制する。
ジリジリと勇者パーティが後退していく。
『くっ、近寄れない』
『魔法でどうにかするわっ』
カレーニアが杖を振り、行動阻害の魔法を飛ばしてくる。
『効かない? 気をつけて、靄に触れたら麻痺するわ!』
エルフのアラインはともかく、カレーニアの状況判断は早く的確だ。
勇者にバフをかけ、隙があればこちらにデバフを飛ばしてくる。
アラインは攻撃に徹し、最初はやる気のない魔法を撃ってきていたが、すぐに今対峙しているのは私だと気がついたようで遠慮なく全開で撃ってきている。
(中々楽しいわね……)
純粋な魔法戦は最終的には魔力の押し合いになり地味になるが、対する人数が多いと退屈しなくていい。
『くそ、近接もダメ、魔法もダメって』
『落ち着け、何かあるはず』
勇者パーティは息切れの合間に短く声を掛け合っている。
『靄が濃すぎて魔王が見えない』
『中心にいる、そこを狙え』
勇者が斬撃を放つ。
スキル持ちなので威力は絶大だ。
(物語なら技名叫んでくれるものだけど……)
実際はわざわざ叫んでくれないので、何が飛んでくるかわからない。
距離を取っているので避けられるが、それでも油断はならない強敵と言っていい。
ロウは大盾で術者を守り、ラウゲンがポーション類を管理。
前衛は連携して攻撃してくる。
勇者の一撃は大きいが、フェンリルと組んで戦う王子はタイプで言えば魔法剣士。
これはこれで厄介なのだが、厄介さは方向違いで私を困らせる。
ニーヴは元々私の家にいた犬なので、私の匂いを知っている。
なので、困惑しているようだ。
こちらを見ておずおずと尻尾まで振っている。
(ちゃんと戦ってくれー……)
王子もニーヴの様子にやや怪訝そうなので、そこはちょっと困る。
私は少し考えたあと、魔物系の犬種に効果の高い狂乱効草の粉末を撒くことにした。
これは数分の効果しかないが、理性を失い身体能力が跳ね上がるものだ。
ねこにマタタビ、犬に狂乱効草である。
想定通りニーヴは興奮し始め、その大きな体にバチバチと雷を纏い始めた。
ニーヴの攻撃を躱し、アラインにそこそこの威力の魔法を放つ。
アラインは障壁を張りつつ、撃ち返してくる。
二十分はあっという間だった。
(なんか物足りないわね……)
玉座の後ろにフレスベルグが戻ってきた気配がしたので、そろそろ交代時間のようだ。
私は靄に混ぜ込んだ麻痺魔法を収束させ、より強くして勇者パーティを包み込んだ。
『グアッ、身体が……』
『息が』
『耐えろ耐えろ!』
勇者パーティが完全麻痺しているのは十秒。
それだけあれば充分だ。
フレスベルグは自分も似たような靄を纏いながら、私の前に出た。
これで私の出番は終了である。
《おい、フェンリル……》
《大丈夫、そろそろ落ち着くから》
ケルベロスに噛まれても平気なくせに、フェンリルを怖がるとは。
フレスベルグの基準がよくわからないが、交代はスマートに済んだので良しとする。
私はそのまま招待客ブースへと転移した。
どよめく会場、私は手を振りながら変化魔法を解いた。
アマネが駆け寄ってくる。
興奮で瞳孔が開き、黒い瞳が爛々と輝いている。
よほど楽しみにしていたのだろう。
「さあ、約束の時間よ。いい? 声は出さない、動かない」
「うん!」
もう一度招待客に手を振り、謁見の間へアマネを連れて転移すると立ち直った勇者とフレスベルグが良い感じで打ち合っている。
フレスベルグは手首に魔力抑制のバングルを装備することにしたようで、なかなかの接戦になっていた。
隠蔽魔法はかけてあるが、念のためアマネには姿隠しのネックレスも付けさせた。
《おお、近いねっ》
アマネがギュッと身を寄せて囁いてきた。
《そうね。大声はだめよ》
《うん》
王子とニーヴが連携し、フレスベルグの態勢を崩す。
そのタイミングで勇者の斬撃、アラインの魔法攻撃。
ラウゲンは弓を構え、タイミングを見て麻痺矢や毒矢を放つ。
カレーニアはデバフが通じないと早々に見切りをつけ、バフに専念している。
『まだまだだな、人間の勇者よ』
『…………』
勇者は無言で剣を振り、フレスベルグの肩部分の鎧を破壊した。
『俺は……負けるわけには行かないんだ!』
(おお、キマったー!)




