前半戦
振り払われ転がったものの、すぐに態勢を取り直す勇者。
瞬発力、剣技、受け身──どれをとっても素晴らしい。
一方、フレスベルグは少し困っているようだった。
そう、当たり前だが勇者たちは順番に攻撃をしてくるわけではない。
一斉に襲いかかってくるのだ。
良い感じで斬りあうのは意外と難しい。
アラインは音と光だけは派手な、オリジナル魔法を適当に撃ち込んできている。
フレスベルグは一応よろめいてみたり、全員吹っ飛ばしたりと奮戦はしている。
(強すぎて制御が難しいのは……経験を積むしかないのよね)
勇者側は結構消耗してきている。
ポーションを使う暇が無いようだ。
《フレスベルグ、ポーション使う時間あげて》
《わかった、一歩引いてみる》
『ふむ……中々やるな? 我ももう少し本気を出すとしようか』
《飲め! 今は息を整えろ》
《はあ、はあ……強い……》
《魔王だからな。だが退くわけには行かぬ》
《殿下もポーション飲んでください》
「そろそろ出番よ、レスター」
「任せろ」
次のアラインの攻撃を待ち、真正面から当たって自ら吹っ飛んだフレスベルグとレスターが入れ替わった。
すかさず私がフレスベルグに隠蔽魔法をかける。
「見ておくのよ、フレスベルグ。経験の差を」
「おう」
レスターは転がった大剣を、後ろのフレスベルグに向かって蹴った。
そのままどす黒い刀身のカタナを出し、力を抜いたまま佇んでいる。
『どうした、勇者。もう終わりか』
(めっちゃ煽るじゃん……ノリノリね)
『くっ! 行くぞ、みんな!』
勇者の斬撃をカタナで受け流し、振り下ろされた王子の剣を身をよじって躱す。
躱した先で待ち受けていたラウゲンの双剣を蹴って落とし、盾を構えたロウに体当たり。
レスターの戦いはいつ見ても無駄がなく、流麗。
だが、ハナちゃんが足元をウロウロしているので、さすがのレスターもやりにくそうではある。
(ハナちゃん……ちょっと場所が悪いけど吹っ飛ばすわけにいかないし……)
そんなことを思っていると、ハナちゃんが何らかのスキルを発動した。
後退するレスター。
ハナちゃんと打ち合っている。
目をこすってもう一度見たが、やはり白刃きらめく打ち合いをしている。
(あ、ハナちゃんって聖女だけどサムライスキル持ちだった…………!)
「うわ、俺の時じゃなくて良かった」
「殺したら元も子もないからね」
(うーん、ハナちゃんにはもう退場いただいたほうがいいかもしれない)
「排除するわ、一緒に来て」
ハナちゃんとレスターが肉弾戦過ぎて、攻撃をためらう勇者たち。
ハナちゃんに攻撃が当たるのを危惧しているのだろう。
私とフレスベルグは、隠蔽魔法がかかっているが勇者たちの死角になるよう、気をつけてレスターに近づいた。
レスターには上を指さして転移の合図。
「どうすんだ」
「ハナちゃんだけ転移させてあとで戻す」
荒ぶる柴犬を捕まえるのは生まれて初めてだ。
私は飛び回るハナちゃんの首元に狙いを定め、引っ掴んだ。
触れさえすれば巻き込み転移ができるから。
転移先はカルミラのところだ。
「まあ、可愛い。ハナちゃんは退場なの?」
「ええ。予測不能な要素が強いから。全部終わったら外で再会シーンにしておけばいいんじゃない?」
「なるほど、感動の再会……いいわね」
「私交代があるからもう行くわ、犬をよろしく」
「はーい」
フレスベルグに近寄り三十分休憩してきてもいいと告げ、自分の交代の支度を始める。
レスターには今から軽く靄が出るよう、付与しておく。
『ハナッ! ハナー!』
『落ち着け、今は魔王から目を逸らすな』
『クソっ、ハナ……魔王アイヒェル……』
勇者の弱点はハナちゃん。
居なくなって動揺を隠しきれないでいる。
(そうよね、勇者から見たらハナちゃんは生死不明の行方不明だもの……)
勇者はレスター扮する魔王に斬りかかった。
キン、と音が鳴りカタナが半分に折れる。
(入れ替わりの合図!)
私は麻痺効果のある靄を一気に展開させた。
勇者はヒットアンドアウェイでパーティの前衛に戻っている。
『なんだ?』
『麻痺だ!』
案の定、パーティの気は麻痺解除の方に向く。
これからは魔法合戦で時間を稼ぐのだ。
前衛の見せ場はいっぱい撮れたと思うので、今からは後衛の見せ場。
レスターは転移でいなくなり、そのまま私が魔王アイヒェルを引き継ぐ。
見た目は大きいし鎧姿だけれど、それは魔力で作ったハリボテ。
触られたらバレてしまう。
(なので、相手を近づけない戦いをする)
近寄ってきた場合はアクセサリーの自動反撃で、三半規管を揺らす。
地味だが、自分が食らったらすごく嫌な攻撃だ。
「ふふっ」
さあ、二十分頑張ろうか。




