謁見の間到着
「なあ、カンペ通りセリフを言うにしても」
「なあに、まさか暗記してないの?」
「いや。覚えてるんだけどさぁ……相手が話してる間とか変身中に攻撃した方が、絶対勝率高いよな?」
「……そこはお約束だから」
勇者たちが隠れながら、一階に到達し謁見の間近くまで迫ってきている。
「アラインがこっち見てる、怖え」
アラインはエルフなので感知能力が高く、時々カメラ目線だ。
撮影班も生きた心地がしないだろう。
「そろそろ見張りが交代するわ、さあフレちゃん謁見の間の玉座に座っておいて」
カルミラがそわそわしながら扇を振り、フレスベルグは重い鎧姿で元気よく立ち上がった。
「へいへーい。行ってきます、母上」
「んまッ! 聞いた?フレちゃんがママって言ったわ!」
「言ってねえよ、じゃ行ってくる」
「ねえ!ジューンは聞いたでしょう?ママって言ったわね?」
私は寄ってくるカルミラを押しやり、溜息をついた。
「母上、とは言ったわね……でもしつこく言ったら二度と言ってくれないわよ」
「そ、そうかしら……。まあいいわ、舞台は問題無し。フレちゃんも玉座に座ったわね」
「見た目はいいのよね、鎧姿なのが残念」
「最終形態は鎧姿じゃないから、いいんじゃない? 勇者チャンネルのアンケートでは、最終形態は勇者の攻撃で鎧が破壊されることになってて」
「え、私は変更ないよね?」
「ジューンは鎧姿でいいのよ、フレちゃんが途中で鎧を破壊されて上半身裸になるのよ」
「ファンサですかね?」
「そう。ファン投票で最後はそう決まってる」
まあ、いい。
最初フレスベルグ、第二形態チェンジ中にレスターと交代。
第二形態中盤〜第三形態へ変身する途中までが私。
最後にまたフレスベルグに戻る。
私達は勢い余って勇者たちを殺してしまわないよう、フレスベルグが舞台に慣れるまでの安全調整のための代理だ。
「こんなものか」
レスターが魔力で同じ鎧を作り出していく。
フレスベルグとレスターは身長は同程度だが、レスターの方が筋骨隆々という感じだ。
種族が鬼だから、当然とも言えるが。
私は彼らと比べるとかなり小さいので、登場時から目眩ましの靄を纏って出る予定。
(勇者たちは死に物狂い、そうそう気が付かれたりはしないと思うけれど……)
一応ドライアイスと一緒に、鼻が利きにくくなる精油も混ぜてあるので嗅覚の鋭いカレーニア対策もバッチリだ。
「さて、そろそろ扉が開くぞ。行くとするか」
「そうね」
私とレスターは隠蔽魔法を纏って、玉座の後ろで待機だ。
さっさと持ち場につかないと、カルミラが怒りそうである。
(うわぁ、やっぱり足元冷たいじゃないの……)
「寒いか」
「寒いってほどじゃないけど、足元がヒヤヒヤする」
「動き出すまで我慢だな」
「そうね……」
フレスベルグが侍女から大きなワイングラスを持たされ、鎧姿だというのに足を組んだ。
足が長いのはわかるが、とっさの時に後れを取りそう……。
だが魔王、虚無のアイヒェルは今は静かなひとときを一人楽しんでいる設定なので、足は組んでいて正解なのかもしれない。
ジジッ……と魔力カードと扉の魔法陣が反応した音が小さく聞こえた。
それと同時に、ドライアイスの煙が増量され渦を巻き始めた。
音もなく開いていく扉。
この城は生きている、動き続ける城として運用されている……物語ならば軋んだ音を立てて開いていく方が良いのだが。
生活している者が居るのにドアを軋ませるのは現実的ではない。
使用人が罰を受けてもおかしくない事案だ。
『…………誰かと思えば。人間か』
フレスベルグの呟きは、風魔法によって反響しながら謁見の間を漂う。
勇者たちに脚本はないので、無言になりがちなのは仕方がない。
『何をしに来た? ここはお前たちがいていい場所ではない……』
帰れ、とばかりに手を払うフレスベルグ。
剣の持ち手を深く握り込んだのだろう、勇者の右手元から微かに金属質の音が鳴る。
フレスベルグは魔力を半分以下に抑えているが、それでも勇者たちより遥かに強い。
魔力差がありすぎると、物理的に動けなくなるのだ。
首を傾げたフレスベルグが、更に魔力を抑えた。
まずは、勇者が動けるレベルを維持しなくてはいけない。
決意を秘めた若き勇者は、剣を抜かず一歩前に進み、口を開いた。




