いよいよ
食堂に入った勇者たちはすぐに出てきて、先程までいた近くの部屋に滑り込んだ。
厨房が無人ではなかったからだ。
(無人にしておけば良かったんだろうけど、まだ夕食前の時間帯。厨房が無人になる方がおかしいものね)
短時間の打ち合わせ後、ラウゲンが単身食堂へ入って行った。
「妥当だな」
「ええ」
「万が一見つかっても、犠牲者はラウゲンだけで済む」
「戦力を出来るだけ温存するには、斥候に行ってもらうしかないものね」
「勇者はかなりゴネてたけどな」
ラウゲンは決死の覚悟で潜入している。
単身で魔王軍に発見されれば命の保証はない。
……という設定だ。
実際には誰も厨房から出てこないのだけれど。
そもそもラウバッハの城に食堂があったのが面白いところだ。
死霊は食事に重きを置いていないから。
趣味で味を楽しむための施設と言ったほうが正しい気がする。
モニターには一人で広い食堂を調査するラウゲン。
もう一つのモニターには、まだ王子に食い下がっている勇者。
日本人である勇者は、死ぬかもしれないと予想される場所に仲間を一人で行かせるのが納得いかないのだろう。
「まあ、舞台裏を知らなければそう思うのも無理はない。だが実際、現実的に判断すれば斥候一人でというのは定石だ」
「そうね。カードは何処に?」
「椅子の脇の床。立ち上がった時に落ちる場所だな」
身を隠しながら探索していたラウゲンがカードを発見し、手にした。
そのまま素早く勇者たちの元へ。
「……これで決戦への下準備は終わったな」
「あとは告知通り十九刻ちょっと前に、謁見の間の見張りが居なくなる」
「なんかラウゲン、紙も持ってない?」
「ああ、あれはね……謁見の間の交代時間表」
ラウゲンの手元には何度も折られ、ボロボロに使い古された交代時間表。
一行はそれを覗き込み、なにか打ち合わせしながら小部屋を休憩場所と定めた様子。
「食堂は地下だし、ちょっと一階の謁見の間まで遠くないか?」
「謁見の間の近くに勇者たちの休憩場所が確保出来なくて。なので時間を提示して、あの場所で休憩してもらうことにしたの」
一時間ほど休憩したあとは、いよいよ勇者パーティが謁見の間に入場することになる。
ラウゲンが小部屋に内鍵をかけ、ロウが水と糧食を配り始めたのを機に勇者たちは腰を下ろした。
「なあ、ジューン。全部終わって一段落したらさぁ」
ドワーフに鎧を着せられながら、フレスベルグが間延びした声を上げた。
「なに?」
「ティティとデジュカの涅槃岳に行こうぜ」
「えー、またダンジョン行きたいの?嫌よ、もっと簡単なところにアマネと行ってきたら?」
「それもありだな……涅槃岳はダメ?」
「いいんじゃないか、俺も行こう。アマネにやった双剣もどう使うか見たいし」
レスターが余計な口を挟んだ。
「嫌よ」
「涅槃岳はさぁ、エルフ同伴じゃないと入れないじゃん、せめて入場だけでも頼むよー」
「涅槃岳は大型魔物が多いし、ほぼ全部毒持ちでやっかいなのよ」
「じゃあミシュティも──」
「やめてよ、うちのメイド巻き込まないでよね。それにこれ終わったら私忙しいのよ」
「なんで」
「ビビちゃんを島に連れて行くし、ソフィーちゃんの様子も観察しなきゃだから」
勇者たちは無言で食事をとっている。
固く焼き締めたパン、干し肉。
「不味そうだなぁ」
「敵地で料理始めるほうがおかしいだろ。匂いが出ない糧食一択だぞ」
「そうだけどさぁ、不味そう」
「美味しくはないでしょうね」
刻一刻と決戦の時は迫っている。
謁見の間を映すモニターにはスタッフたちが走り回り、最終チェックを済ませている最中だ。
ドライアイスの煙が床を流れているが、下方に取り付けられた換気口からしっかり換気は行われている。
「……ねえ」
「なんだよ」
「もしかして、謁見の間って寒いんじゃ……」
「そりゃドライアイスだし、ひんやりはするんじゃねーの」
「すごい顔になってるぞ、ジューン。寒いのが嫌いなのは知っているが登場時間は三十分足らずだ、頑張れ」
靴下を二重にしておこう。
そして、防寒着で行こう。
(私の姿は指定された鎧姿に変化させるだけだから、コート着て行こ……)
自分の服の上から魔力で鎧姿を構築するだけだし、レスターやフレスベルグに比べたら私は小柄なので、多少着膨れしても問題なさそう。
「お、いよいよ準備し始めたぞ」
勇者たちは食事を片付け、装備のチェックを始めた。
いよいよ、である。




