勇者、食堂潜入
「勇者は物静かな子みたいね」
カルミラが呟いた。
「本が好きみたい。簡単な識字しか付与されてないけれど、学んで色々読み漁ってたって資料にあったわ」
「ふうん」
フレスベルグが雑誌から目線を上げ、こちらを見た。
「いい勇者ってなんだろうな?」
「さあね。評価は国に……というか社会で他人が決めるから、わからないわ」
「それぞれの社会によって評価が変わってくるのは、勇者の世界も同じだったと思うけれど……まだ思春期だし、人として未完成なのが当然ね」
「そうだな」
「ジューンはどう思う?」
レスターが私に問いかけてきた。
モニターには探索を続ける勇者パーティが静かに映し出されている。
「そうねえ。完成された人格や資質が社会が求める物に近ければ近いほど、照りの強いまん丸の真珠。誰が見ても価値があるものに見える」
「ふむ」
「完璧な人物の点数が100とすると、100に近くて照りが強くて真円に近いほど価値を見出される」
「真珠か」
「例えばよ。でも100の人ってまずいないじゃない?80だったり50だったり──歪な形の人もいる」
「バロック真珠みたいな?」
「そう。バロック真珠に価値を見出す人もいるわけで」
「確かにな。価値観はそれぞれであって、勇者自身の在り方は勇者が決めるものだな」
「そうね。社会が求める勇者は優等生であることだと思う。勇者はどう考えてるかわからないけどね」
フレスベルグが頬杖をついて憂いを帯びた顔でモニターを眺めた。
「社会が求めるいい勇者は優等生。俺が求める勇者は切り刻んでこない勇者」
「ブハッ、そりゃ無理な相談だ」
「やられてなんぼでしょ」
「あー痛いのは嫌だぁ」
「あ、もう一つ勇者の資質に求められることがあるわね」
「なんだよ」
「壊れない頑丈さね。いくら魔法や魔道具で底上げされても、本来の頑健さは個体差があるから。大技の剣技を放っても壊れない身体は持って生まれた才能ね」
「確かに」
「そういう面で見たら、フレスベルグ一番勇者の才能あるわね」
「マジかー」
「本気の戦闘になれば、私の魔力とレスターの技巧の方が圧倒的に上回ってる。今はね?」
「生きてる年数が違うからなー」
「フレスベルグは多分どんな大技を出しても壊れない。これは才能と言っていい」
「そうかもだけださぁ、ジューンに勝てる気がしない」
「負けないように画策するのが私。でも、肉体的負担がある同じ技を放って負傷するのも私の方だわ」
「フレスベルグの技巧や場数が追いついてくれば、いずれ互角になると思うぞ」
「そ、そうかな」
「あなたは経験値の差で勝てないだけ。いずれは必ず強くなる」
「あー、でも魔法に関してはアマネの方が器用そうだ」
「バロック真珠のままでいいのよ、完璧を求めれば破綻するもの」
「なるほどなぁ、じゃあ長所を活かした生き方が結局完璧に近づくんかな」
「そういうこと。壊れないよう立ち回るのが最適解ね」
眠そうなカルミラが首を傾げた。
「でも、ジューンってそういう理論ぶち抜いてくるじゃないの。魔王組合で戦ったら最後に笑うのはジューンだと思うわ」
「高笑いしそう」
「エルフはなぁ……なんか色々おかしい種族だし」
「歴史にある大事件の戦犯も八割はエルフだしな」
「なによ」
「そのエルフの中でも最強なんじゃね?」
「…………」
「お、あらかた探し終わったっぽいぞ」
モニターには食堂を窺うラウゲンの姿が大写しになっている。
「この人、ハゲる呪いをかけられたんでしょ? フサフサじゃないの」
「アラインが呪い返ししたから。呪術を行った魔女は寝込んでる」
「へえ」
「ほら、ツヨン草のゴブリンのお友達のコルルっていたでしょう」
私は眉を上げたレスターに経緯を話した。
「コルルはコボルトで、呪ったのはその飼い主の魔女らしいわ」
「コボルト?飼い主……ああ、愛コボの奴らか」
「愛コボかー、あいつらなんで犬に擬態して飼われてんの?」
「ここ掘れ組のゴンタさんが言うには、自分探しの一環らしいわよ」
「自分探し」
「そう。自分探し。色々決まりがあるらしくて、ただ飼われてるわけじゃないみたいよ?」
「と、言うと?」
「飼われて十五年くらいしたら失踪するとか、愛コボ協会に所在を報告する義務があるとか……」
「なんだそれ、ブフッ」
「何度も飼われにいくコボルトは依存症なんですって。クーンに依存症治療施設があるって話よ」
「へえ、コボルト社会って意外と闇深いんだなぁ……」
食堂の前から死霊騎士が離れた。
ラウゲンが開け放たれた食堂内をチェックし、無人なのを確認する。
ハンドサインで勇者たちに合図を送り、一行は素早く食堂に潜入した。




