跳ね橋
「なんかすごい疲れた」
侍女にコルセットを外してもらい、ワンピースに着替えて化粧を落とした私は控室のソファーにぐったり身を沈めた。
「盛況で何よりよ。招待客は大満足、不都合はないわ」
パヤパヤ頭のカルミラはそう言ってふんぞり返った。
「お、跳ね橋の小屋方面に向かったぞ」
「まだ時間じゃないから待機ね。それにしても待機場所の選び方、移動の仕方……無駄がないわねぇ」
「王子が騎士団長だし、ロウとラウゲンが経験豊富な冒険者だからだな」
「優等生過ぎてトラブル起こさないのがちょっと……いや、ありがたいけれど」
「暴走すると視聴率は上がりそうだけどなぁ」
「今回は召喚からトラブル続きだから、勇者が有能で助かってるのよ?」
フレスベルグは矛先が自分に向きそうになったのを察してコソコソと部屋を出ていった。
「しかし暇だな」
レスターが飽き飽きした様子で文句を言い始めたので、私も同意した。
モニターには所在なさげなビビちゃんが、西の方でウロウロしている。
他の屍龍は一旦メア大陸の峡谷に帰還したというのに。
「なあ、あの鈍い屍龍どうするんだ?」
「ビビちゃんよ」
「はあ?」
「名前はビビちゃん」
「名付けたのか。ああ、だから骨が水色……なるほど」
レスターは呆れたようにモニターを眺めた。
「ひよこ島に連れて帰る予定なんだけど、私の手が離せない今はちょっと無理。しばらくお散歩していて貰うわ」
「飼うのかよ」
「だって、名付け受け入れちゃったんだから仕方ないでしょ。それに可愛いじゃない」
「可愛いのか?……そうか、可愛いか」
ソフィーちゃんは封印の鳥籠の中。
温泉に沈んでいるポチはいいとして。
島を自由に動ける魔馬、魔咆犬、ヒドラがいる以上──私不在でビビちゃんを放り込むわけには行かない。
「骨だからディーに噛まれるかもしれない」
「いや普通に考えて屍龍の方が強いだろ、ディーは小型犬じゃねーか」
「見たでしょ、泉にハマったあの姿」
「魔咆犬は意外と強いのよ」
無類の犬好きであるカルミラが口を挟んだ。
「この前、パンジーちゃんとディーちゃんが骨を取り合って喧嘩してたけど……互角だったわ」
パンジーちゃんはケルベロスにしてはかなり小柄だが、成犬。
かたやディーは成犬ではない。
「うーん、パンジーちゃんは大人しいから」
「犬飼ったことないからわからんが、五キロ程度のちっこいのがケルベロスと喧嘩って凄いな?」
「どこかに雄の魔咆犬飼ってる人いないかしら? 私も魔咆犬飼いたい」
「ちょっと、勝手に繁殖計画立てないでよ。……お婿さんだなんて、まだディーには早すぎるわ」
「そういえばアーモンドゲイズどうなった」
「龍島で保母さんやってるわよ」
バルフィたちが購入した引退レース龍のアーモンドゲイズちゃんは気のいい子らしく、すぐに赤ちゃん龍たちのお世話を始めたらしい。
「なあに、ジューンは龍レースに参入する気なの?」
「うーん、成り行きで龍舎作っちゃったの」
「アーモンドゲイズはなぁ、歴代牝龍の中でも……」
カルミラとレスターの龍談義が始まった。
私は髪を洗いたい。
「ねえ、髪の毛洗いたいからちょっと帰っていい?」
「いいけどすぐ戻ってきてね」
ひよこ島に戻った私は早速温泉に浸かってリフレッシュした。
犬たちには見つからないよう、直接湯殿に転移したので問題はない。
「ふぅ……」
もうじき小屋の前から見張りがいなくなり、勇者たちが跳ね橋を渡り場内に潜入する。
適当なタイミングでスケルトンたちと戦闘をしながら探索をしてもらう算段だ。
「早く終わんないかなぁ……」
一旦ショートボブにした髪はセミロングになっている。
しっかり整髪料を落とし、頭をマッサージすると気分もいくらかスッキリしてきた。
あんまり時間をかけるわけにもいかないので、身支度を整えて控室へと転移すると、ラウバッハとカルミラはアフタヌーンティーを楽しんでいた。
レスターはソファーで居眠りをしている。
「あら、早かったわね。紅茶でもどう?」
「いただくわ」
モニターに目をやると、ちょうど勇者たちが小屋に侵入するところだ。
「ヒントも間違えず読み取れてるようね」
勇者たちは水瓶に注意深く水を注ぎ、鍵の台座を出現させている。
勇者が王子から鍵を受け取り、順番に差し込んでいくと魔法陣が浮かび上がる。
カレーニアが魔力を注ぐと、跳ね橋を操作するレバーの封印は解除された。
音は聞こえてこないけれど、きっとカチリと鳴っただろう。




