森の奥の泉
「半年くらい一緒に旅してるのに、パーティ内での恋愛なしってアリなのか……」
「疑似恋愛というか、プラトニックでもそういう感じの願望は奴隷美少女がいたから間に合ってたんじゃない?」
「冒険者たちだと──パーティ内で恋愛になった場合、どっちかが抜けることが多いぞ」
「え、そうなのか」
レスターの言葉にフレスベルグが不思議そうに首を傾げた。
ほぼソロでなんでも解決しているので、パーティを組んだことがない可哀想な男。
それがフレスベルグだ。
「だってパーティ内で交際が始まったら、公平性に欠くことが多いでしょう」
「公平性? パーティの?」
「そう。当人たちはそんなつもりはなくても、出すお茶の順番、治療の優先順位。それが恋人優先になったら? 妥当な順番だったとしても、疑われるかもしれない」
「なるほど……」
「そういう小さな積み重ねから不和は始まるのよ」
レスターが深く頷きながら口を開いた。
「要は緊急時の優先順位が妥当だったかどうかが、冒険者たちは揉めやすいんだよ。ポーションは高額だしな。そこに色恋が絡むと、一気に面倒になる。だから恋愛になったら片方が抜けるんだよ」
「なるほどなぁ……ハーレムは夢物語だったか……」
「ハーレムパーティにしたいなら、最初から勇者以外の男入れちゃダメだろ」
「確かに」
「恋人の方の怪我が重くて優先順位が正当だったとしても、高額が動く治療関係は後から色眼鏡で見られて揉めがちってことよ」
フレスベルグは夢がないながらも、現実的な事情を聞いてなんとなく納得したようだった。
レスターがニヤリと笑って言った。
「うまく立ち回ってる奴らは交際をオープンにしていない。公私をしっかり切り分けてるが……お前には無理そうだなぁ」
「なんだよー」
フレスベルグはすぐ顔に出るから、腹芸には向いてない。
こればっかりはレスターに揶揄われても仕方ないと思うわ。
「うーむ、死霊騎士たち、ちょっと仕事が雑じゃないか?もうじき奥につきそうじゃないか」
「ああ、それね。ハナちゃんがランダムに聖気を放つもんだから、みんな怖がっちゃって」
犬とはいえ聖女様のスキルなので、死霊たちには大ダメージである。
防御アイテムはあるとはいえ、怖がられて当然かな。
「気持ちはわからんでもない」
死霊騎士はいつの間にかブラックスケルトンたちに交代している。
「この辺からはドラゴンライダーと小型ドラゴンのスケルトンって案もあったんだけど、森だから場所がなくて」
「あ、だからカラースケルトン?」
「そう」
カラースケルトンはスケルトンの亜種。
普通のスケルトンよりすごく強い。
色は黒か赤、紫が多いが、どういうシステムなのかはわかっておらず、属性は関係なさそうだ。
確実なのはカラースケルトンは生前があるというところ。
生まれつきスケルトンなわけではなく、何らかの要因で死後にスケルトンになった者がほとんどだ。
普通のスケルトン同様、知性は高く会話も成立する。
「おお? このブラックスケルトン超強くね? 聖女の聖気を切り飛ばしたぞ」
しばらくラウバッハと筆談をしていたカルミラが顔をあげ、モニターを見た。
「ラウバッハの話によると、そのブラックスケルトンはフィアン教の司祭だったみたいよ」
「え、司祭がスケルトン……それってアリなのか?」
「いいみたいよ。非番の日はフィアン教を布教してるみたい」
「いやいやいや、フィアン教ってアレじゃん。死霊になるかもしれないからって世界中に火葬を広めたじゃんか。つまりアンテッドは滅される立場だよな?」
「……非番の日は自由だから問題ないみたい」
「……納得いかないなぁ。いいのか?アンテッドの司祭」
ラウバッハが鷹揚に頷いた。
「ここのスケルトンにも一部フィアン教徒がいるみたいで、屋上に仮設祭壇があるんですって。教会はさすがに許可がおりなさそうだから申請しなかったみたい」
「ラウバッハはおおらかなんだなぁ……元エルフなのに……」
「待って、それはなんだかエルフの心が狭いみたいじゃないの」
「……確かに心は狭くないな…………?」
「ジューンがエルフらしく振る舞っていたら、今頃俺たちが生きているか怪しいものだ。女と侮るなかれ──エルフの中でも最強の女だぞ」
「お、おう。なんかごめん、ジューン」
「わかればいいのよ」
「あ、泉が見えてきたわね……勇者パーティは屍龍発見、恐慌状態継続中、離脱者なし……全員が背中を預け合う円形。さあ、どう立て直す?」
「そりゃ屍龍四頭も出てきたら──あれ、足りなくね?」
「五頭いるはずだな」
「一匹迷子になっ……あ、いるじゃない。泉に浸かってる」
見るとビビちゃんが小さい泉に無理やり尾とお尻を沈めている。
「ちょっとちょっと、その泉に入ってる子……ズームして」
「うひ、頭にいるのジューンのヘビじゃね?」
「…………」
確かにひよこ島にさっき帰った時?ソフィーちゃんは見かけていない。
が、連れてきた覚えはない。
「私かフレスベルグの影に入ってついてきたか、もっと前にミシュティやアマネと来ちゃったかね……」
まあ、誰と来たかはどうでもいい。
ソフィーちゃんは私の蛇で、その責任は私にある。
泉の乙女ごっこでもしているのだろうか?
ビビちゃんとソフィーちゃんは仲よさげに頭を寄せ合って……というかソフィーちゃんがビビちゃんの頭上に鎮座している。
(なんか嫌な予感がするわねぇ……)




