勇者、死霊の森へ
「森……あの森はちょっとあんまりだぞ」
フレスベルグが文句を言った。
勇者たちは入り口で早くも道に迷い始め、右往左往している。
「眩惑魔法陣はともかく、方向感覚がおかしくなる魔法陣が凶悪だろ」
「そう?珍しい魔法陣じゃないじゃない」
カルミラが不思議そうに首を傾げた。
フレスベルグは首を振り、私を指さした。
「ジューン製のは凶悪だったぞ」
「そこまでじゃないでしょ、既存の方向感覚魔法陣に三半規管を揺さぶる術式を加えただけじゃないの」
「三半規管……それはエグいな」
「だろ?だろ?」
「あ、ほら。勇者とカレーニアがしゃがみ込んだわ」
「それなぁ……マジ気持ち悪くなるんよ……」
ふらふらし始めた勇者パーティだったが、アラインが最寄りの魔法陣を見つけて無効にしたので数分後には行軍が再開された。
ヒントを回収しながら魔法陣にも対処していく。
いい加減体力が削られたところで、ビビちゃんたちに遭遇する感じだ。
「危なっ! 今ハナちゃん聖気を放ったわよ、死霊スタッフが滅されちゃう」
カルミラが慌て始め、ラウバッハが部下たちに何らかの指示を伝達した。
(無関係なのに控室にいるのは変だと思ったけど、よく考えたら死霊スタッフってラウバッハの部下をそのまま借りてたんだったわ……)
「今頃聖女らしく仕事するとか」
「犬ぅ……」
入れ替えは迅速に行われ、森にいた死霊たちの位階が上がった。
「うん、騎士クラスなら犬の聖気で消し飛ぶことはないわ」
「思ったよりエグいな、食らった死霊は無事なのか」
「昇天を防止する札が配布されてるから、滅されてはいないみたい」
「一人何枚?」
「三枚よ」
ラウバッハが近くにいればいるほど死霊たちの存在力が強くなっていくので、死ににくく……生存率があがるというわけか。
死んでるけど。
「ハナの予測不能さも厄介だが、フェンリルがやばくね? なんであのフェンリル、氷と一緒に雷出してんの」
「んー……ニーヴは特殊個体っぽいのよね、身体も大きいし」
「フェンリルに噛まれたら痛そう」
「あなたいつもケルベロスに噛まれてるじゃないの。ケルベロスの方が凶暴だと思うわ」
カルミラが鼻でフレスベルグをせせら笑った。
「くっ……ケルベロスよりマシか」
さもありなん。
フェンリルに咬まれても物理的に怪我をするだけだが、ケルベロスはそうはいかない。
唾液は金をも溶かす強酸、吐く息は業火。
それに加えて一度本気で噛みついたら、首を飛ばされるまで離さない。
しかも首は再生する。
「強いなぁ、死霊騎士数人出てきても崩れない」
「王子が司令塔のようね」
「アラインがよそ見ばっかりしてるんだけど」
勇者たちは危なげなく戦闘をこなしている。
アラインは何かを気にしてキョロキョロしているが。
死霊騎士たちはある程度打ち合ったら倒された感じで転移していくのだが、数万の数がいるのでほぼ無限に出てくる。
死霊の森は無限に死霊とエンカウントする中で、ヒントとキーアイテムを探さなくてはいけないのだ。
さすがに一気に全部のタスクは無理なんじゃないかな。
「あ、撤退みたい」
森に入って四時間。
いくつかのヒントと二つの鍵を手に入れた勇者たちは一旦廃村に戻るようだ。
「あー、なるほど。火は熾火を灰で覆って埋み火にして温存か。この熊獣人さんは相当野営慣れしてるな」
「うずみび? なんだそれ」
フレスベルグがガシャンと手を挙げた。
「灰の中に炭を埋めておくんだよ……またすぐ使えるように」
「ほーん。魔法があるのに何で」
「多分タンクの熊獣人の拘りだな。確かに魔法で火はすぐ起こせるが、炭は時間がかかる。で、炭で焼いたもんは美味い」
「それはわかる」
控室にいるのはカルミラ、ラウバッハ。
モニターや魔道具を操作するスタッフが数名。
私、レスター、フレスベルグ。
カルミラは司令塔だし、戦力はラウバッハの部下であるから、カルミラよりラウバッハが指示を出す方が事故が起きない。
私たちは最終決戦の舞台に上がるので、ここにいるだけだ。
(帰りたい……絶対家で実況中継見てるほうが楽しいと思う)
「ふむ。深追いはせずこのまま夜営に入るようだな」
「想定通りね。明日の夕方までに鍵を見つければいいし、北の湖の方のアイテムはラウゲンが回収済みみたいだから──若干余裕がある」
「もっと難しいとこに隠せばよかった」
「そう言うなって。アイテム探しは一日半が適正だ。死の島は……普通の人間ならば、居るだけで疲れるからな」
私はため息をつき、たまごサンドを口に放り込んだ。




