上陸、そして廃村へ
……勇者は何を思い、勇者であろうとしているのか。
それは本人にしかわからない。
彼の考えていること、感じていることは私にはわからない。
物語の中であれば、その心中を描かれることもあるのだろうけれど。
ここは確かに存在する現実で、誰かが誰かの心の内を覗くことは不可能なのだ。
(想像や推測しか出来ないのよね、結局。他人のことはわからない)
まあ、現実ってそういうものだろう。
モニターに映る勇者パーティは落ち着いて行動しているように見える。
「ちょっと、廃村に着く前に屍龍たちが見つかっちゃうんじゃないの」
四番モニターは屍龍たちを映しているが、一頭がキャオギャオと鳴いている。
なかなか大きな声だが、まだ距離はある。
「大丈夫じゃない? アラインとかニーヴには聞こえてそうだけど」
「それもそうね、ハナちゃんは耳が遠いし」
「なんだって鳴いてるんだ? 腹でも減ったのか」
「まさか。龍は食事を必要としないでしょ」
「ポテトフライならさっきあげたけど?」
「……足りなかったとか?」
「あ、静かになったわね」
勇者たちは周囲を窺いながら無言でアラインが見つけた廃村方向へ向かっている。
慎重に進んでいるので、ゆっくりだが正しいやり方だ。
知らない場所でふざけたり無駄話をしたり、急な動きをするのは下策だからだ。
「こうやって実際に見てると、地味だよな」
前世ではライトノベル大好きだったらしいフレスベルグが呟いた。
「そりゃそうだ。未知の領域で雑談したり勝手な行動をしたら全滅リスクが高い。慎重に行動してたらドラマティックなことなんてそうそう起きないだろ」
レスターの言葉に、フレスベルグは納得したように言葉を続けた。
「奴隷のお姉さんも最後の寄港先で降ろしてたし、船上で待っている船員もそこで最少人数に調整されてるもんなー」
「今回の勇者パーティは本当に優等生で、無駄がない」
「王族がいるから統率取れてる」
「ああ、第五王子な。ジューンにご執心の」
「ご執心なわけじゃないわ。あの人、戻ったらローランの旧貴族の姫と婚姻するみたいだし。エルフと親しいという政治的デモンストレーションなのよ」
「あ、そういう」
「口説かれたのは事実だけど、本気じゃないでしょ」
「マジかよ、第五王子すげーな? ジューンを口説くとか命知らず過ぎん?」
私は黙ってフレスベルグの鎧に熱風を送った。
「うお!? あち、やめろよー」
レスターがゲラゲラ笑いだし、氷の粒を降らせた。
「本気だったかもしれんぞ? 見た目は世界一の美女と言っても過言じゃないしな。それにちょっと抜けてて可愛いところもある……おい、俺は悪くないだろ! やめろ、室内で火球は危ないぞ」
ラウバッハがカルミラに紙切れを手渡した。
「あ、廃村発見したみたいよ? なあに?ラウバッハ……やだぁ、私が世界一? うふ、ありがとう」
「…………」
「…………」
「うん、カルミラは美人だよ。そこは間違いない」
遠い目をしたフレスベルグが、そう呟いた。
勇者たちは静かに廃村探索を続けている。
小さな村だが、二時間ほどかけて安全確認と休憩のための障壁が展開された。
「あの障壁、アラインだよな? 全くエルフときたら、魔法陣も使わないででたらめなことしやがって……」
「エルフだからなぁ……」
八番モニターは少し大きめで、招待客席を映し出している。
入場が始まって、静かに席が埋まっていく。
「お、アマネの衣装はミシュティと対になってるんだな」
黒いメイド服を着たミシュティと一緒に招待客を案内しているのは、黒い執事服を着せられたアマネ。
ミシュティが魔界の洋品店で注文した物だ。
「おい、招待客がアマネにオヤツを与えてるぞ」
「長命種族は子供好きだから。でもすぐ食べないでお礼を言ってしまってるし、いいんじゃない? どうせあとからミシュティの毒物チェックが入ると思うし」
「お、勇者たちが騒ぎ始めたな」
「毒蛇投入イベントね。あ、もう倒しちゃったわ……もっと数を増やすべきだったわね」
「あれ、食料の差し入れみたいだな? プティバイソンは毒持ちだけど美味いからな」
「低脂質、高タンパク。そのまま焼いても美味しいからちょうどいいんじゃない」
「タンクの熊獣人、実家が料理やってる店らしくて調理は得意みたいよ」
「いい手つきだ」
熊獣人、ロウは手際よくヘビの皮を剥いでいく。
アラインは火を起こし、勇者はニーヴとハナちゃんのために水の容器をだしている。
アルフォンス殿下はテント設営。
斥候は周囲の監視、ジーンとカレーニアはロウのお手伝い。
「いいチームだ。無駄がない」
「そうね」
ドラマのような派手さはないが、勇者パーティは間違いなく有能だ。




