勇者グラン、死の島に立つ
「ひよこ島に帰ったら怒られそうだし、散歩でもするか」
みんな忙しそうだし、ここ掘れ組を含めた現場スタッフは帰っちゃったし……城内をウロウロしたら随所に散らばっている撮影班の邪魔になりそうだし。
「屍龍たちはどこにいるのかしら……あれ、全員一緒にいるのね」
仲良しなのかしら。
「…………」
(まあ、次から次へと屍龍に遭遇するよりは一度に済んだほうが勇者たちもきっと楽なはず)
問題はなさそうだ。
死霊騎士たちも持ち場についている。
勇者たちはまだ上陸していない。
「ほらほらあなたたち、今からお仕事よ。さあポテトフライ食べて頑張ってね」
屍龍たちは嬉しそうに配ったポテトフライを食べた。
口に入れ、飲み込む──骨だから丸見えなのだが途中でポテトフライは消えていく。
(なるほど、瞬時に魔力変換されている……屍龍で見るとわかりやすいわね。いい教材になるのでは?)
一番小さい五メートル位の子が観察しやすくて良い感じだ。
骨格が他の子より華奢だからメスだと思われる。
「…………女の子か。うちにいる子はポチ以外みんな女の子なのよね」
(名前はどうしようかな……)
「可愛い名前が良いわね。よし、ビビちゃんなんてどうかしら?」
その瞬間、屍龍の骨の色が薄いティファニーブルーに変わった。
「え、あれ? 魔力名付け受け入れちゃった感じ?……なんて可愛いのかしら。屍龍って意外と人懐っこいのね……」
ビビちゃんは嬉しそうにカシャカシャと尾を地面に打ちつけた。
「じゃあ、あとは宜しくね。みんな大怪我しないようにね」
勇者たちが乗った船が陸地に船首を向けた。
いよいよ着岸のようだ。
いい感じに雷も鳴っている。
(ビビちゃんをひよこ島で飼うなら、何が必要かしら……ポチの巣の近くはダメだろうし、真逆の東端に地下壕でも掘るか)
日当たりのいい場所は良くないだろうし、ビビちゃんは暗いところのほうが好きだと思う。
うん、そうしよう。
時々空が光っているのは雷代わりの魔道具のフラッシュだ。
陰惨な雰囲気のこの島にはぴったりだ。
「…………」
私は死龍たちのところに戻り、ビビちゃんの胸骨に可愛いカットの宝石を付けることにした。
「ビビちゃん、ちょっと動かないでねー」
うん、可愛い。
近くでよく観察しないと見えないレベルの小さなルビーだけれど、似合ってる。
ビビちゃんも嬉しそうだ。
「そろそろ謁見の間のバックヤードに行かないと怒られそうね」
私は呼び出される前に自主的にバックヤードへと転移した。
「何してたの、遅いじゃないの」
「遅刻じゃないでしょ」
カルミラは神経質そうに脚を組み替えた。
決戦は明日なんだから大丈夫だと思うのだけれど。
隣に当たり前のようにラウバッハが居るのだが、良いんだろうか。
関係者と言うか島のオーナーだからアリなのか。
「あ、ラウバッハは魔王組合に入ることになったから」
「今、このタイミングで? まあいいけど」
隅に座っていたレスターが真面目な顔で考え込んでいる。
「歓迎会はどうするんだ」
鎧を着せられている最中のフレスベルグがそれに続く。
「焼肉がいい」
「なら、バーベキューだな。ラウバッハは好き嫌いあるのか?」
ラウバッハは手を振った。
好き嫌いは無いらしい。
耳こそ聞こえないが、読唇術には長けているので口元さえ見えていれば筆談じゃなくてもいいのだ。
「いや待て、決戦後の打ち上げ、勇者帰還パーティー、現場スタッフへの慰労会……どこに差し込む?」
「打ち上げはすぐやる。慰労会は早いほうがいいから、そのあとね」
バックヤードの壁は数十個のモニターで埋め尽くされている。
海岸を映すモニターが着岸の様子を映し出している。
「お、接岸したぞ」
「なかなかうまく着けたわね……でも数メートルは小舟ね。想定通りよ」
勇者たちは緊張した面持ちで小舟から灰色の砂浜に降り立った。
隣のモニターがパーティメンバーのアップを映し出す。
「あら? 勇者……随分と日焼けしたわね」
「船は日焼けするんだよなぁ……」
「あ、ハナちゃんとニーヴも降りたわよ」
「犬どもはなんかしょぼくれてないか?」
「船酔いでしょうね。休憩ちゃんと入れないと」
「アラインに言ってあるから大丈夫よ」
「……なあ、焼肉にはアラインも呼ぶのか?」
「呼びたいなら呼ぶけど?」
「あ、見て。アラインが廃村方向を指さしてる」
「よしよし、これで休憩場所確保ね」
順調、順調。
廃村で休憩、仕切り直して出発かな。
トラブルがなくてなによりよ。




